地震速報で「震度3」と発表されていても、高層ビルの上層階では、立っていられないほどの揺れや、家具が大きく移動する被害が起こることがあります。こうした揺れの特徴を理解するうえで欠かせないのが、気象庁が定める「長周期地震動階級」です。
2026年現在、長周期地震動に関する観測情報は、高層階の居住者やオフィスの利用者が地震後の状況を把握するための重要な情報です。加えて、2023年2月1日からは、長周期地震動階級の予測が緊急地震速報(警報)の発表基準に加わっています。震度との違い、階級1〜4で起こり得る被害、観測情報の読み方、そして高層階で命を守るための行動を、気象庁の公式解説に基づいて整理します。
【基礎知識】長周期地震動階級とは?震度との違いをわかりやすく解説

長周期地震動とは、1往復するのにかかる時間が長い、ゆっくりとした大きな揺れのことです。大規模な地震では、こうした地震動が発生し、震源から離れた地域まで伝わる場合があります。
高層ビルには、建物ごとに揺れやすい周期である「固有周期」があります。高い建物ほど一般に固有周期が長くなる傾向があり、地震動の周期と建物の固有周期が近いと、共振によって揺れが増幅されることがあります。そのため、地上では揺れが比較的小さく感じられても、高層階では大きな揺れが長時間続く場合があるのです。
気象庁の「長周期地震動階級および長周期地震動階級関連解説表について」によると、長周期地震動階級は、高層ビル内での人の行動の困難さや、家具・什器の移動や転倒などの被害の程度を基に、揺れを4段階に区分した指標です。
ここで押さえておきたいのは、長周期地震動階級が、単純に地震の規模や震源からの距離を表す数字ではないという点です。実際に観測された地震動の特性から、高層ビルで生じ得る揺れの程度を評価するために使われます。
長周期地震動階級と震度は何が違う?震度と長周期地震動階級は、どちらも地震の揺れを理解するための指標ですが、評価する対象が異なります。震度だけでは、高層ビルの上層階でどの程度の揺れになるかを十分に把握できない場合があります。
その具体例として、気象庁は2011年の東北地方太平洋沖地震を挙げています。大阪市では地上で観測された震度が3だった一方、高層ビルでは内装材や防火扉の破損、エレベーターの停止による閉じ込めなど、長周期地震動に関連する被害が発生しました。
つまり、「震度が低いから高層階も安全」とは判断できません。高層ビルにいる人は、震度情報に加えて、長周期地震動に関する予測や観測情報も確認することが大切です。
【階級1〜4を比較】揺れの強さ・家具の転倒や移動はどう変わる?
長周期地震動階級関連解説表は、階級ごとに人の体感や行動、室内で起こり得る現象を整理したものです。気象庁が示す内容を、日常生活でイメージしやすいように
| 階級 | 揺れの程度 | 人の体感・行動 | 家具・室内の状況 | Svaの判定範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 階級1 | やや大きな揺れ | 体が揺れを感じ、驚く人もいる | ブラインドなどのつり下げ物が大きく揺れる | 5cm/s以上、15cm/s未満 |
| 階級2 | 大きな揺れ | 物につかまりたいと感じ、つかまらないと歩くことが難しくなる場合がある | キャスター付き什器がわずかに動き、棚の食器や書棚の本が落ちることがある | 15cm/s以上、50cm/s未満 |
| 階級3 | 非常に大きな揺れ | 立っていることが困難になる | キャスター付き什器や固定していない家具が大きく動き、不安定なものが倒れることがある | 50cm/s以上、100cm/s未満 |
| 階級4 | 極めて大きな揺れ | 立っていることができず、はわないと動けないほど揺れに翻弄される | キャスター付き什器が移動・転倒し、固定していない家具の大半が移動することがある | 100cm/s以上 |
※Svaの値は、長周期地震動階級を判定するための絶対速度応答スペクトルの値です。 気象庁は減衰定数5%の条件で、周期1.6秒から7.8秒までを0.2秒刻みで計算し、その範囲での最大値を基に階級を判定しています。
階級1でも油断できない理由階級1は4段階の中では最も低い区分ですが、高層階で揺れを感じる可能性があることを示しています。つり下げ物が大きく揺れることもあり、家具の固定や避難経路の確保といった日頃の備えが無駄になるわけではありません。
階級2からは移動する家具にも注意階級2では、キャスター付きの什器が動いたり、棚の食器や書籍が落下したりすることがあります。オフィスではコピー機やワゴン、家庭ではキャスター付き収納やテレビ台などが移動する可能性を考えておく必要があります。
階級3・4では自力で移動することも難しくなる階級3では立っていることが困難になり、固定していない家具が移動したり、転倒したりする場合があります。階級4では、はわないと移動できないほどの揺れや、家具の大規模な移動・転倒が想定されます。
ただし、解説表に記載された現象が、同じ階級で必ずすべて起こるわけではありません。建物の構造や状態、揺れの継続時間、家具の固定状況などによって、実際の被害は異なります。階級は被害を確定する数字ではなく、危険性を理解するための目安です。
【仕組みを解説】絶対速度応答スペクトルSvaから階級が決まる理由
長周期地震動階級は、地震計で観測された揺れを基に算出されます。その際に使われる重要な指標が「絶対速度応答スペクトル」、略してSvaです。
Svaは、地震動を受けたとき、異なる固有周期を持つ建物の揺れやすさを比較するための指標です。気象庁は、減衰定数5%の振動モデルを用いて、周期1.6秒から7.8秒までの範囲で計算したSvaの最大値から、その観測地点の長周期地震動階級を決定します。
地震計の観測から階級判定まで仕組みを簡単に整理すると、次のようになります。
- 地表や低層建物の1階などに設置された地震計で、地震動を観測する。
- 観測データを基に、複数の周期に対する絶対速度応答スペクトルSvaを計算する。
- 周期1.6秒から7.8秒までのSvaの最大値を求める。
- 最大値を所定の基準に当てはめ、階級1〜4を判定する。
観測結果に「階級0」と表示される場合もあります。これは、長周期地震動階級1に達していないことを意味します。階級0は、地震そのものが発生していない、あるいはほかの種類の揺れがないという意味ではありません。
観測地点の階級が、そのまま建物内の実測値になるわけではないここは誤解しやすいポイントです。長周期地震動に関する観測情報で示される階級は、原則として地表や低層建物の1階に設置された地震計のデータから算出されます。その地点に高層ビルがある場合に、上層階でどの程度の揺れが生じ得るかを推計するための指標です。
したがって、個々の高層ビルの室内で揺れを直接測定した結果とは異なります。同じ建物でも、階数や位置によって揺れ方が変わることがあります。気象庁も、建物や地盤の特性までを階級が表現するものではなく、建物の頂部では発表された階級より大きく揺れる場合があると説明しています。
長周期地震動階級を確認するときは、数値だけで安全・危険を断定するのではなく、建物の状況や室内の家具の固定状態も合わせて考えることが重要です。
【観測情報の見方】いつ発表される?気象庁の情報を正しく読む方法
気象庁が発表する「長周期地震動に関する観測情報」は、地震発生後に、実際に観測された長周期地震動の状況を知らせる情報です。高層ビルなどでの防災対応を支援し、揺れによる被害の可能性を把握するために提供されています。
長周期地震動に関する観測情報の発表時期気象庁の公式説明によると、観測情報は長周期地震動階級1以上を観測した場合に発表されます。地震発生後、観測結果を取りまとめ、10分程度を目安にオンライン配信するとともに、気象庁ホームページに掲載されます。
この情報は、階級1以上が観測された地震について、地域ごとの最大階級や観測点ごとの階級などを確認するためのものです。原則として、地震発生後の観測結果を取りまとめて発表する情報であり、揺れが来る前の警報とは役割が異なります。
気象庁の観測情報で確認したいポイント- 地域ごとの最大階級:どの地域で強い長周期地震動が観測されたかを確認する。
- 観測点ごとの階級:観測地点ごとに揺れの程度を把握する。
- 周期別階級:どの周期帯で揺れが大きかったかを確認する。
- 震度との組み合わせ:震度が比較的小さくても、高層階で大きな揺れが起こり得ることを念頭に置く。
例えば、高層マンションで地震を経験した場合、住んでいる地域の震度だけで判断せず、長周期地震動の観測情報も確認することで、周辺でどの程度の揺れが観測されたかを把握する手掛かりになります。
ただし、観測点の階級が高かったからといって、すべての建物で同じ被害が発生したと判断することはできません。自分の建物の安全確認や、管理会社・防災センターからの案内も合わせて確認してください。
【導入経緯と2026年最新情報】長周期地震動階級はいつから使われている?
長周期地震動階級が導入された背景には、震度だけでは高層ビルの上層階で起こる揺れや被害を十分に把握できないという課題がありました。高層ビルの増加に伴い、こうした揺れに備えるための情報を提供する必要性が高まったのです。
気象庁の公式資料「気象業務はいま」などに記載された制度の経緯を整理すると、次のようになります。
- 2013年3月:長周期地震動階級を導入。
- 2013年3月28日:長周期地震動に関する観測情報の試行的な提供を気象庁ホームページで開始。
- 2019年3月19日:観測情報を本運用へ移行。
- 2023年2月1日:緊急地震速報の発表基準に、長周期地震動階級の予測値を追加。
- 2023年2月:長周期地震動に関する観測情報のオンライン配信を開始。
2023年2月1日から、長周期地震動階級3以上が予想される場合にも、緊急地震速報(警報)が発表される仕組みになりました。これは、長周期地震動によって高層階で大きな揺れが発生し、人が立っていられなくなったり、家具が移動・転倒したりする危険に対して、早めに警戒を呼びかけるためです。
重要なのは、緊急地震速報と観測情報を混同しないことです。緊急地震速報は、これから起こる強い揺れに備えるための予測情報です。一方、長周期地震動に関する観測情報は、地震発生後に実際に観測された揺れを知らせる情報です。
つまり、階級3以上の予測が緊急地震速報の警報基準に加わったことと、観測情報が階級1以上で発表されることは、別々の仕組みです。
2026年時点で押さえておきたいポイント2026年の防災知識として重要なのは、長周期地震動階級が、地震発生後に被害を振り返るためだけの指標ではなく、緊急地震速報による事前の警戒にも活用されている点です。
また、観測情報のオンライン配信によって、地震後の情報をより早く把握できるようになっています。高層マンションの居住者、オフィスビルの利用者、施設管理者は、震度情報と長周期地震動の情報を組み合わせて、安全確認や館内対応に役立てることができます。
【高層階の防災対策】家具の転倒・移動を防ぎ、揺れの最中に身を守る方法
長周期地震動への備えで特に重要なのは、家具が倒れる危険だけでなく、家具そのものが大きく移動する危険を考えることです。大きな地震では、固定されていない収納家具やキャスター付きの機器が動き、人にぶつかったり、避難経路を塞いだりする可能性があります。
地震が起こる前にしておきたいこと- 背の高い家具を固定する:転倒防止器具などを使い、家具が倒れにくい状態にする。
- キャスター付きの家具を固定する:使用しないときはキャスターのロックなどを活用し、動きにくい状態にする。
- 寝室や避難経路の配置を見直す:家具が倒れたり移動したりしても、出入口や通路を塞ぎにくい配置にする。
- 落下物を減らす:棚の上に重い物を置かず、食器や本などが飛び出しにくいように工夫する。
- 安全な場所を決めておく:家具や照明などが落ちてこない、倒れてこない、移動してこない場所を家族や同僚と共有する。
東京消防庁などの防災資料でも、家具類の転倒・落下・移動防止は地震対策の基本として案内されています。特に高層階では、重量のある家具やオフィス機器が移動することも想定し、固定と配置の両方を見直すことが大切です。
揺れている最中に取るべき行動- まず頭部を保護する。手やクッションなどで頭を守り、落下物から身を守る。
- 姿勢を低くする。立ったまま移動しようとせず、転倒を防ぐことを優先する。
- 家具や窓から離れる。転倒・移動する家具、落下物、ガラスなどの危険から距離を取る。
- 安全な場所で揺れに備える。周囲の状況を確認し、可能であれば体を支えられる場所で揺れが収まるのを待つ。
長周期地震動では、揺れがゆっくり大きく続くため、揺れの最中に歩いて移動しようとすると転倒する危険があります。無理に出口へ走るのではなく、まずはその場で身の安全を確保してください。
揺れが収まった後に確認したいこと- 家具の転倒や移動、落下物による負傷がないか確認する。
- 火災や煙、ガスの異常、室内の破損などがないか、無理のない範囲で確認する。
- エレベーターが停止している可能性を考え、閉じ込めや故障の危険がある場合は使用を避ける。
- 建物の管理者や防災センターからの案内を確認し、必要に応じて指示に従う。
- 建物内に危険がある場合は、安全を確保しながら避難し、緊急時は消防などの公的機関の指示に従う。
高層ビルでは、地震の後にエレベーターの停止や設備の不具合が発生することもあります。階段での移動も、建物の状況や本人の体調によって危険を伴う場合があるため、周囲の安全と管理者の案内を確認が必要です。
【長周期地震動階級】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:長周期地震動階級4は、震度7と同じ意味ですか?
A1:いいえ。長周期地震動階級と震度は異なる指標です。階級4は、高層ビル内で立っていられず、はわないと動けないほどの揺れや、家具の大規模な移動・転倒が起こり得る状態を示します。震度7と直接対応するものではありません。
Q2:震度が小さくても、長周期地震動階級が高くなることはありますか?
A2:あります。地上で観測される震度が比較的小さくても、高層ビルの高層階では長周期地震動によって大きな揺れが生じる場合があります。2011年の東北地方太平洋沖地震では、大阪市で震度3が観測された一方、高層ビルで内装材などの破損が発生しました。
Q3:長周期地震動に関する観測情報は、いつ発表されますか?
A3:気象庁は、長周期地震動階級1以上を観測した場合、地震発生後に観測結果を取りまとめ、10分程度を目安にオンライン配信し、ホームページにも掲載します。これは地震発生後の観測情報であり、地震の前に警戒を呼びかける緊急地震速報とは異なります。
長周期地震動階級は、高層ビル内での行動の困難さや、家具・什器の移動・転倒などの被害の程度を4段階で示す指標です。階級1はやや大きな揺れ、階級2は大きな揺れ、階級3は非常に大きな揺れ、階級4は極めて大きな揺れを表します。
震度が示す揺れの強さだけでは、高層階で起こり得る揺れや被害を十分に把握できない場合があります。長周期地震動に関する観測情報の見方を知り、緊急地震速報との違いを理解しておくことが、地震発生時の適切な判断につながります。
2026年の防災対策として、まず取り組みたいのは、家具の固定、キャスター付き機器の移動防止、安全な場所の確保、そして揺れが起きたときの行動をあらかじめ決めておくことです。高層階にいるときは、震度の数字だけで安心せず、長周期地震動の情報と実際の建物の状況を合わせて判断してください。
地震の規模や階級を知るだけでは、被害を完全に防ぐことはできません。しかし、どのような揺れが起こり得るのかを理解し、家具の移動や転倒まで想定した備えを進めることで、自分と周囲の人の安全を守る可能性を高められます。