東畑開人(とうはた・かいと)さんは、臨床心理士・公認心理師としてカウンセリングの現場に立ちながら、人間の心や孤独、他者とのつながりをテーマに執筆を続ける臨床心理学者です。『居るのはつらいよ』『聞く技術 聞いてもらう技術』『雨の日の心理学』などの著書で知られ、2026年には『カウンセリングとは何か 変化するということ』で第19回新書大賞を受賞しました。
東畑さんの著作が読者の関心を集める理由は、心理学の専門知識を紹介するだけでなく、仕事の行き詰まり、人間関係の悩み、誰かを支えることの難しさといった身近な問題を、カウンセリングの視点から捉え直している点にあります。京都大学での学びから臨床現場での経験、2026年の受賞作、初心者におすすめの著書、読者から評価される理由までを整理します。
【プロフィール】東畑開人はどんな臨床心理士・公認心理師なのか

東畑開人さんは、1983年生まれ、東京都出身の臨床心理学者です。専門領域は臨床心理学・精神分析・医療人類学。人の心の問題を個人の性格や考え方だけで説明するのではなく、その人が置かれた環境や人間関係、社会とのつながりも含めて考える姿勢に特徴があります。
保有資格は臨床心理士と公認心理師です。臨床心理士は、心理学の専門知識や臨床実践に関する専門性を認定する資格で、公認心理師は法律に基づく国家資格です。東畑さんは、こうした専門的な立場からカウンセリングを実践すると同時に、一般読者に向けて心理学の知見を発信してきました。
現在は白金高輪カウンセリングルームを主宰し、慶應義塾大学大学院社会学研究科の訪問教授、立命館大学大学院人間科学研究科の客員教授も務めています。臨床の現場と大学での研究・教育、そして一般向けの出版活動を横断していることが、東畑さんの仕事を理解するうえで重要です。
白金高輪カウンセリングルームの公式プロフィールでは、うつ、自己嫌悪、空虚感、対人不安、食に関する問題、LGBTQに関する相談、親子・夫婦・パートナー間の関係など、幅広いテーマに関わってきたことが紹介されています。相談者の事情に応じて適切な心理支援を考え、話し合うという姿勢は、東畑さんの著作に通じる考え方でもあります。
著作を読む際に押さえておきたいのは、東畑さんが単に「前向きに考える方法」を教える書き手ではないという点です。心の苦しさには、本人の努力だけでは変えにくい生活上の事情や、他者との関係、社会的な環境が関わることがあります。その複雑さを無理に単純化せず、現実に即して理解しようとする姿勢が、臨床家としての実践と文章の両方を支えています。
【経歴・受賞歴】京都大学から臨床現場へ、そして2026年の新書大賞へ
東畑さんの経歴は、大学での心理学研究から、精神科クリニックやデイケアなどの臨床現場、さらに一般読者に向けた著作活動へと広がっています。白金高輪カウンセリングルームや出版社の公式プロフィールで公表されている主な経歴・受賞歴をまとめました。
| 時期 | 経歴・出来事 | 主な意味・実績 |
|---|---|---|
| 1983年 | 東京都生まれ | 臨床心理学・精神分析・医療人類学を専門とする |
| 2005年 | 京都大学教育学部卒業 | 心理学を学ぶ基盤を築く |
| 2010年 | 京都大学大学院教育学研究科博士課程修了 | 博士(教育学) |
| 2012年 | 『美と深層心理学』刊行 | 初期の研究・著作活動 |
| 2013年 | 日本心理臨床学会奨励賞 | 専門領域での受賞 |
| 2015〜2017年 | 『野の医者は笑う』『日本のありふれた心理療法』などを刊行 | 心の治療と、地域・文化・社会との関係を考察 |
| 2019〜2020年 | 『居るのはつらいよ』で第19回大佛次郎論壇賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020を受賞 | ケアとセラピーをめぐる著作が高く評価される |
| 2021年 | 多文化間精神医学会奨励賞 | 専門領域での受賞歴を重ねる |
| 2022〜2024年 | 『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』『聞く技術 聞いてもらう技術』『雨の日の心理学』などを刊行 | 心理学を一般読者の日常に結びつける著作を展開 |
| 2025年 | 『カウンセリングとは何か 変化するということ』刊行 | カウンセリングの全体像と心の変化を扱う |
| 2026年 | 第19回新書大賞を受賞 | 『カウンセリングとは何か』が大賞に選ばれる |
表の経歴・著書・受賞歴は、白金高輪カウンセリングルーム、新潮社、講談社などの公表情報に基づいています。
経歴のなかで大きな転機となった作品が、2019年刊行の『居るのはつらいよ』です。沖縄の精神科デイケアでの経験を題材に、ケアとは何か、治療とは何か、そして人が誰かと同じ場所に居続けることにはどのような意味があるのかを描きました。同書は第19回大佛次郎論壇賞と紀伊國屋じんぶん大賞2020を受賞し、東畑さんの名前を広く知らしめる契機となりました。
ここで注目したいのは、受賞歴が単に専門知識の正確さだけを示すものではないことです。東畑さんの著作では、心理学の理論と、実際の生活で人が感じる戸惑いや苦しさが結びついています。研究者や臨床家だけでなく、書店員や一般読者が関心を寄せるようになった背景にも、この接点があります。
【新書大賞2026】『カウンセリングとは何か』はなぜ評価されたのか
2026年の東畑さんを語るうえで外せないのが、『カウンセリングとは何か 変化するということ』です。同書は2025年9月に講談社現代新書から刊行され、2026年2月10日に発表された第19回新書大賞で大賞を受賞しました。新書大賞は、前年までに刊行された新書を対象に、有識者や書店員、各社の新書編集長、記者などが投票し、その年に最も薦めたい一冊を選ぶ賞です。2026年の選考では103人が投票しました。
選考対象は2024年12月から2025年11月までに刊行された新書です。2026年3月21日には三省堂書店神保町本店で贈賞式と記念講演会も行われました。2026年は、東畑さんのカウンセリング論が専門家の領域を超え、一般向けの知的な読み物としても評価された節目といえます。
本書の中心的な問いは、「カウンセリングによって、人の心はどのように変わるのか」というものです。精神分析、ユング心理学、認知行動療法、家族療法、人間性心理学など、複数の心理療法を俯瞰しながら、カウンセリングの役割を一つの方法だけに還元せず、全体像として捉えようとしています。
本書は全5章で構成され、カウンセリングの入り口から終結までをたどります。第2章では悩みを理解し、その仕組みを探る「謎解き」、第3章では生活上の危機に対応する「作戦会議」、第4章では心の奥にある問題に向き合う「冒険」が扱われます。最後には、カウンセリングを終えること自体も、変化のプロセスとして考察されます。
この構成が示しているのは、カウンセリングがただ相手の話を聞くだけの営みではないということです。生活の危機に直面している人には、日常を維持するための具体的な対策が必要になる場合があります。一方、自分の生き方や人間関係に行き詰まっている人には、これまでの考え方や感情を見つめ直す時間が必要になることもあります。
つまり、本書は「いかに生き延びるか」と「いかに生きるか」という二つの課題を区別しつつ、その両方をカウンセリングの射程に入れています。すぐに解決できる問題と、時間をかけなければ向き合えない問題を混同しないこと。それが、東畑さんのカウンセリング論を理解するうえでの要点です。
評価の面でも、2026年2月に公開された中央公論新社の受賞作レビューでは、カウンセリングの全体像を描いたことや、具体的なエピソードを通じて人間の心に迫る点が推薦者から評価されました。同書を紹介した2026年2月14日のクーリエ・ジャポンの記事では、累計14万部を突破したことも伝えられています。これらは、専門的なテーマへの関心が広い読者層にまで及んだことを示す材料です。
【著書おすすめ】東畑開人の代表作5冊と選び方
東畑さんの本は、心理学の理論を体系的に学ぶものから、日常の悩みを手がかりに心を考えるもの、誰かを支える立場にいる人のためのものまで幅広くあります。初めて読むなら、知りたいテーマに合わせて選ぶと、著者の考え方をつかみやすくなります。
1.『カウンセリングとは何か 変化するということ』
カウンセリングの基本から、心の問題の理解、現実への対処、心の探索、終結までを一冊で学びたい人におすすめです。448ページの新書で、心理療法の複数の流派を俯瞰しながら、カウンセリングという営み全体を描きます。2026年の新書大賞受賞作であり、東畑さんの考え方を総合的に知りたい読者に向いています。
2.『聞く技術 聞いてもらう技術』
人の話をうまく聞けない、身近な人の相談にどう応じればいいのかわからない、自分の悩みを誰かに話すことが難しい。そんな人が手に取りやすい一冊です。2022年刊行のちくま新書で、「聞く」ことと「聞いてもらう」ことの双方を扱っています。日常の会話や職場のコミュニケーションに関心がある人にとって、入り口にしやすい本です。
この本の特徴は、聞き手だけに努力を求めないことです。相手を理解しようとする技術に加えて、自分自身が話を聞いてもらうことの意味にも目を向けています。コミュニケーションを個人の話術の問題としてではなく、人と人との関係のなかで捉える点が、実用書としての魅力につながっています。
3.『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』
人を支える仕事の意味や、居場所をつくることの難しさに関心がある人に向いています。精神科デイケアでの経験をもとに、何かを教えたり治療したりすることだけでなく、同じ場所で過ごし、日常をともにすることにも目を向けています。2019年刊行の本書は、第19回大佛次郎論壇賞と紀伊國屋じんぶん大賞2020を受賞しました。
支援やケアという言葉から、相手を変えること、役に立つこと、問題を解決することを連想する人は少なくありません。本書は、そうした発想だけでは見えにくい「ただ一緒に居ること」の難しさと価値を問い直します。福祉、医療、教育、介護など、人を支える仕事に携わる人にも考える材料が多い一冊です。
4.『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』
家族や友人、パートナー、同僚など、身近な人がつらい状況に陥ったとき、どう関わればよいのかを考えたい人におすすめです。2024年にKADOKAWAから刊行された本書は、子育てや介護、職場での支援など、日常のなかで突然始まるケアを扱います。ケアする側も疲れたり迷ったりすることを前提に、心理学の知識を生活に生かす視点を示しています。
この本が扱うのは、専門家としてのカウンセリングだけではありません。誰かの不調に直面し、どう対応すべきか迷う人も、ケアに関わる当事者です。相手を助けることだけでなく、支える側が自分自身の生活や心の状態を守る必要がある点にも目を向けています。
5.『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』
家族、キャリア、自尊心、恋愛、幸福など、人生の選択に迷っている人に向いています。2022年刊行の本書は、人生を一つの正解にまとめようとするのではなく、複数の生き方や心のあり方を考える構成です。2025年7月には新潮文庫版も刊行され、手に取りやすい形でも読めるようになりました。
本書では、心や人生を単一の尺度で評価しないことが大切なテーマになっています。すべてを割り切って説明できなくても、複数の視点を持つことで、いまの苦しさを少し違った角度から捉えられることがあります。心理学の専門書よりも、人生について考える読み物から始めたい人に適しています。
なお、これらの本は同じ内容を繰り返しているわけではありません。『カウンセリングとは何か』が理論と実践の全体像を扱うのに対し、『聞く技術 聞いてもらう技術』はコミュニケーション、『居るのはつらいよ』はケアと居場所、『雨の日の心理学』は身近な人への支援、『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』は人生の迷いや心の複雑さに重点を置いています。
【評判を分析】東畑開人の本が読者に支持される理由と注意点
東畑さんの評判を考えるうえで、確認できる客観的な材料の一つが受賞歴です。『居るのはつらいよ』は大佛次郎論壇賞と紀伊國屋じんぶん大賞2020を受賞し、『カウンセリングとは何か』は新書大賞2026の大賞に選ばれています。専門的な心理学のテーマを扱う著作が、論壇や書店員・有識者による書籍評価でも取り上げられてきたことがわかります。
新書大賞の受賞作レビューでは、カウンセリングの全体像を描いたことや、読者が自分の経験と重ね合わせやすい具体的なエピソードが評価されています。こうした評価からは、東畑さんの著作が専門知識を説明するだけでなく、読者自身の生き方や他者との関係を考えるきっかけにもなっていることが読み取れます。
支持される理由の一つは、心の問題を「本人の努力不足」という説明だけで片づけないことです。悩みには、個人の感情や考え方だけでなく、生活環境、周囲との関係、社会的な役割など、さまざまな要因が絡み合います。東畑さんの文章では、こうした複雑さを残したまま、何が起きているのかを理解する手がかりが提示されます。
もう一つの特徴は、専門用語を日常の場面に結びつけることです。カウンセリングというと、専門家が相談者の話を聞き、助言する場面を想像しがちです。しかし、東畑さんの著作では、生活上の問題を整理すること、周囲との関係を調整すること、自分の気持ちを探ることなども、心の変化に関わる営みとして扱われます。
ただし、受賞歴や書評だけで、すべての読者にとって読みやすい本だと判断することはできません。『カウンセリングとは何か』は448ページに及び、心理療法の歴史や複数の理論を扱うため、短時間で答えだけを得たい人には負担になる可能性があります。専門的なテーマをじっくり読み進めることが苦手な場合は、まず『聞く技術 聞いてもらう技術』や『雨の日の心理学』から入るほうが、自分に合うか判断しやすいでしょう。
また、心理学の本は、読めばすべての悩みが解決するというものではありません。著作から得られるのは、問題の捉え方や人との関わり方を考えるための視点です。深刻な心身の不調や、日常生活に大きな支障が生じている場合には、書籍だけで対処しようとせず、医療機関や適切な相談窓口などの支援を検討する必要があります。
【カウンセリングの考え方】白金高輪カウンセリングルームでの実践と著作のつながり
東畑さんの著作を貫くテーマは、心の問題を理解することと、その人が現実の生活を送れるよう支えることを切り離さない点にあります。『カウンセリングとは何か』では、カウンセリングの役割を、生活上の危機を乗り越えるための「作戦会議」と、自分の心や生き方を探る「冒険」という二つの側面から説明しています。
生活が崩れかけているときには、まず睡眠や仕事、人間関係など、目の前の問題を整理し、暮らしを維持するための対応を考えることが必要になる場合があります。一方、生活が続けられていても、自分の生き方に納得できない、同じ人間関係で苦しみを繰り返すといった問題には、時間をかけて心を理解することが求められる場合があります。
この二つの視点を分けることには、実際的な意味があります。苦しい人に対して、すぐに人生観を変えるよう求めても、目の前の問題が解決していなければ難しいことがあります。反対に、日常の問題だけを処理しても、長く続いてきた心の葛藤が解消されないこともあります。東畑さんの考え方は、状況に応じて必要な支援を見極めるための枠組みとして理解できます。
こうした姿勢は、白金高輪カウンセリングルームの公式プロフィールにある、相談者それぞれの事情に応じて心理支援を考え、話し合うという方針ともつながっています。同ルームは東京都港区高輪にあり、公式案内では詳しい所在地を相談者のプライバシー保護のため一般公開せず、申し込みをした人に別途案内するとしています。
ただし、著書を読んで東畑さんの考え方に共感することと、本人によるカウンセリングを受けることは別です。書籍は幅広い読者に向けたものであり、個別の相談に対して診断や治療を行うものではありません。相談を希望する場合は、カウンセリングルームの公式案内で、申し込み方法や対応内容を確認することが大切です。
【東畑開人】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:東畑開人さんはどんな資格を持っていますか?
A1:臨床心理士と公認心理師の資格を持ち、博士(教育学)でもあります。京都大学教育学部を卒業し、同大学大学院教育学研究科博士課程を修了しています。
Q2:東畑開人さんの本は、最初に何を読むのがおすすめですか?
A2:人の話を聞く技術や身近な人との関わり方に関心があるなら『聞く技術 聞いてもらう技術』、家族や友人を支えることに悩んでいるなら『雨の日の心理学』がおすすめです。カウンセリング全体を体系的に学びたい場合は、新書大賞2026受賞作の『カウンセリングとは何か 変化するということ』が適しています。
Q3:『カウンセリングとは何か』は新書大賞2026を受賞したのですか?
A3:はい。講談社現代新書から刊行された『カウンセリングとは何か 変化するということ』が、第19回新書大賞の大賞を受賞しました。受賞は2026年2月10日に発表され、同年3月21日に贈賞式と記念講演会が開催されています。
東畑開人さんは、京都大学での学びと臨床現場での経験を土台に、心理学の専門知識を一般読者に向けて伝えてきた臨床心理学者です。『居るのはつらいよ』でケアと居場所の意味を問い、『聞く技術 聞いてもらう技術』で対話のあり方を考え、『雨の日の心理学』では身近な人を支えることの難しさに光を当ててきました。
2026年の新書大賞受賞作『カウンセリングとは何か 変化するということ』は、そうした問題意識を、カウンセリングの始まりから終わりまでという大きな枠組みでまとめた一冊です。心の変化を、ただ話を聞くことや前向きな考え方に限定せず、生活上の対処、現実の調整、心の探索、そして終わりを迎えることまで含めて捉えています。
初めて東畑さんの本を読むなら、日常の会話から考えたい人は『聞く技術 聞いてもらう技術』、身近な人のケアに関心がある人は『雨の日の心理学』、ケアと社会の関係を深く考えたい人は『居るのはつらいよ』から始めるとよいでしょう。カウンセリングの全体像を知りたい人には『カウンセリングとは何か』が向いています。
心の問題には、すぐに答えが見つかるものもあれば、時間をかけて向き合う必要があるものもあります。東畑さんの著作が示すのは、どちらか一方だけを正解とせず、いま必要な支援を考えながら、人が変化していく過程を理解することの大切さです。その視点は、自分自身の悩みを見つめるときにも、誰かを支えようとするときにも、役立つ手がかりになります。