長野県の諏訪湖で、凍った湖面が割れ、氷の筋が山脈のようにせり上がる「御神渡り(おみわたり)」。神様が湖上を渡った跡と伝えられるこの現象は、諏訪地方の冬を象徴する風物詩であり、室町時代から続く貴重な観測記録でもあります。
2026年の冬も、御神渡りは出現しませんでした。八剱神社は2月4日の立春に、御神渡りが現れない「明けの海」を宣言。2018年を最後に8季連続となり、戦国時代に記録された過去最長の連続未出現期間に並びました。1月下旬には諏訪湖の全面結氷が確認され、出現への期待が高まりましたが、氷の状態は長続きしませんでした。なぜ湖が全面結氷しても、御神渡りは現れなかったのでしょうか。2026年の観測経緯から、発生の仕組み、神事の意味、地球温暖化との関係、次に見られる可能性まで詳しく解説します。
【2026年最新】諏訪湖の御神渡りはなぜ出現しなかった?8季連続「明けの海」の経緯

2026年の御神渡り観測は、二十四節気の「小寒」に当たる1月5日に始まりました。観測と認定を担う八剱神社(諏訪市小和田)の宮坂清宮司と氏子総代が、早朝から諏訪湖の湖面や気温、水温などを確認。記録が残る1443年から数えて584年目の観測シーズンでした。
初日の午前6時半ごろ、現地の気温は氷点下1度、水温は2.6度、風速は毎秒1メートル。薄氷は見られず、湖面には穏やかな波が寄せていました。年明けからの冷え込みに期待が寄せられたものの、観測開始時点では御神渡りの発生につながる氷の状態にはなっていませんでした。こうした状況は、信州・市民新聞グループの2026年1月の報道でも伝えられています。
転機となったのは1月下旬です。1月26、27日には3季ぶりとなる全面結氷が確認され、8季ぶりの御神渡りを期待する声が高まりました。しかし、全面結氷はあくまで湖面全体が凍ることを意味します。氷が十分な厚さに達し、気温の変化によって割れ、せり上がる条件が整うことまで保証するものではありません。
八剱神社の観測を伝えた信州・市民新聞グループによると、結氷後の湖面は波や風、日差しにさらされ、時間がたつにつれて凍結範囲が狭まっていきました。厳しい冷え込みが続かず、御神渡りとして認定できる氷の筋が現れなかったのです。
そして2月4日の立春、八剱神社は今季の「明けの海」を宣言しました。2月14日には八剱神社で、御神渡りが出現しなかったことを報告する「御渡注進奉告祭」が行われました。これにより、2018年の出現を最後に8季連続で御神渡りが現れない結果となりました。長野放送(NBS)や信州・市民新聞グループも、この経緯を報じています。
2026年の要点は、単に寒さが足りなかったということではありません。一時的には湖全体が凍っても、その状態を維持し、氷が割れて盛り上がるまでの寒さが続かなかったことが、出現を阻んだ大きな要因です。
【発生の仕組み】御神渡りはどうして氷の山脈になるのか
御神渡りは、諏訪湖が全面結氷したあと、湖面の氷が収縮と膨張を繰り返すことで生じる自然現象です。氷が割れ、亀裂に入り込んだ水が凍り、さらに氷が押し合うことで、湖面に筋状の盛り上がりが形成されます。
長野県の諏訪地域振興局が紹介する資料によると、御神渡りの氷の山脈は高さ約30センチから1メートル80センチに達することがあります。平らな湖面に突然現れたように見える氷の筋は、実際には気温の変動や氷の内部に生じる力が積み重なった結果です。
発生の流れを整理すると、次のようになります。
- 1. 湖面が凍る:厳しい寒さによって湖面に氷が広がり、全面結氷に至る。
- 2. 氷が厚くなる:寒気が続くことで氷が成長し、湖面を覆う氷の層が形成される。
- 3. 氷が収縮・膨張する:昼夜の気温差などによって氷の状態が変化し、内部にひずみが生じる。
- 4. 亀裂が入り、氷がせり上がる:割れ目に水が入り込んで凍るなどの作用が重なり、氷が押し上げられて筋状の盛り上がりができる。
- 5. 御神渡りとして認定される:八剱神社が氷の筋の形状などを確認し、伝統的な基準に基づいて認定や神事を行う。
ここで押さえたいのが、全面結氷と御神渡りの違いです。全面結氷は発生に関係する条件の一つですが、それだけでは御神渡りになりません。氷が成長するだけの寒さに加え、亀裂が入り、氷がせり上がるための条件が重なる必要があります。
また、御神渡りは毎年同じ場所に、同じ形で現れるわけではありません。諏訪観光協会の解説では、代表的な氷の筋として「一の御渡り」「二の御渡り」「佐久の御渡り」が紹介されています。これらの出現状況や氷の状態を確認することが、御神渡りの認定につながります。
つまり、湖面が白く凍っている様子を確認できたとしても、それだけで御神渡りが出現したとは判断できません。全面結氷、氷の成長、亀裂と隆起、神社による認定という段階を区別して理解することが大切です。
【歴代記録と経緯】最後に出現した年は2018年、2026年に過去最長記録へ
諏訪湖の御神渡りが特別な存在である理由の一つは、長期間にわたる観測記録です。八剱神社などに伝わる記録は1443年にさかのぼり、氷の出現状況だけでなく、その形や方向、当時の天候、農作物の出来なども記録されてきました。
2026年の未出現によって、8季連続の「明けの海」となりました。信州・市民新聞グループによると、これは1507年から1514年までの8年間に並ぶ記録です。観測記録に残る長い歴史のなかで、御神渡りが出現しない状態がこれほど続いていることは、地域にとっても大きな関心事となっています。
主な節目を時系列で整理すると、次のとおりです。
| 時期 | 出来事 | 記録上の意味 |
|---|---|---|
| 1443年 | 御神渡りに関する観測記録が残る | 室町時代にさかのぼる長期記録の起点 |
| 1507~1514年 | 8季連続で御神渡りが出現せず | 2026年まで最長記録として知られた連続未出現期間 |
| 2018年2月5日 | 八剱神社による御神渡り拝観神事 | 現在までの最後の出現年 |
| 2019~2025年 | 7季連続で「明けの海」 | 2018年以降、御神渡りが出現しない状態が継続 |
| 2026年1月5日 | 今季の観測開始 | 1443年から数えて584年目の観測 |
| 2026年1月26、27日 | 全面結氷を確認 | 3季ぶりの全面結氷となったが、御神渡りには至らず |
| 2026年2月4日 | 八剱神社が「明けの海」を宣言 | 8季連続となり、過去最長記録に並ぶ |
| 2026年2月14日 | 御渡注進奉告祭を実施 | 今季の未出現を神事で報告 |
この年表から分かるのは、2018年以降の未出現が一時的な空白ではなく、複数の冬をまたいで続いているということです。2026年には全面結氷という期待材料があったにもかかわらず、最終的に御神渡りは認定されませんでした。
一方、古い記録を現在の気象観測データと完全に同じ条件で比較することには限界もあります。それでも、数百年にわたって蓄積された記録は、冬の寒さや湖の結氷が長期的にどう変わってきたかを考えるうえで、ほかに代えがたい資料です。
【神事と伝説】八剱神社の御神渡り観測と「明けの海」の本当の意味
御神渡りは、単に珍しい氷の現象を指す言葉ではありません。諏訪地方では、諏訪大社上社の男神・建御名方神(たけみなかたのかみ)が、下社の女神・八坂刀売神(やさかとめのかみ)のもとへ湖上を渡った跡だと伝えられています。
この伝説に基づく信仰と観測を担っているのが、諏訪市小和田にある八剱神社です。同神社は御神渡りの認定や関連する神事をつかさどり、毎年、冬の湖面を観察してきました。観測は例年、小寒の1月5日ごろから立春の2月4日ごろまで続きます。
観測では、気温や水温、湖面の結氷状況などを確かめ、氷の筋が現れるかを見守ります。御神渡りが確認されると、湖上で拝観神事が行われ、氷の筋の方向などから農作物の出来やその年の天候を占う伝統もあります。諏訪観光協会によると、こうした「御渡り神事」は諏訪市の無形民俗文化財です。
「明けの海」とは、御神渡りが出現しないまま観測期間を終えることを表す言葉です。湖面が一度も凍らなかった年だけを指すわけではありません。2026年のように全面結氷が確認されても、御神渡りが現れなければ「明けの海」となります。
この違いを知らないと、「諏訪湖が全面結氷したのに、なぜ明けの海なのか」という疑問が生まれます。御神渡りは単なる全面結氷の別名ではなく、氷の状態や出現の仕方、伝統的な認定手続きを含む概念なのです。
また、御神渡りの観測は、出現の有無だけを記録するものではありません。寒さが続いた日、湖面が凍った日、氷が解けた状況などを見守り、後世に残すこと自体にも意味があります。2026年に御神渡りが現れなかったとしても、584年目の観測記録が失われるわけではありません。
【地球温暖化の影響】御神渡りが出現しない理由は冬の気温上昇なのか
2018年以降、御神渡りが8季連続で出現していない背景として、地球温暖化に伴う冬季の気温上昇が指摘されています。ただし、ある年に御神渡りが出現しなかった理由を温暖化だけに求めるのではなく、気温、寒気の持続時間、湖面の状態など複数の条件を分けて考える必要があります。
気象情報会社ウェザーニュースが御神渡りの記録と諏訪地域の気象データを分析したところ、1946~1985年の40年間には29回出現していたのに対し、1986~2025年の40年間では10回に減少しました。同社の分析では、冬季平均気温は約70年間でおよそ1.6度上昇し、最低気温が氷点下10度を下回る強い冷え込みの頻度も1980年代後半以降に減少しています。
この傾向は、御神渡りの発生条件と整合します。湖面が全面結氷するには十分な冷え込みが必要であり、氷が成長して割れ、せり上がるためには、その後も寒さが続かなければなりません。冬の気温が高くなり、厳しい冷え込みが短期間で終わると、氷が形成されても解けやすくなり、御神渡りの出現機会が減ると考えられます。
環境省の気候変動関連資料でも、諏訪湖で御神渡りが確認されない年が増えていることや、将来の気温上昇が湖沼の結氷に影響する可能性が示されています。諏訪湖の長期記録は、冬の自然環境の変化を考えるうえで貴重な資料になっています。
一方で、温暖化の影響があるからといって、今後の御神渡りが永久に見られないと決まったわけではありません。自然現象には年ごとの変動があり、強い寒気が長く続けば出現条件が整う可能性は残ります。反対に、寒い日が数日あっただけで、必ず御神渡りが出現するわけでもありません。
重要なのは、1年単位の寒さと、数十年にわたる気候の変化を区別することです。2026年の全面結氷と未出現は、湖面が凍ることと、御神渡りが形成されることの間に、持続的な寒さという条件があることを改めて示しました。
【いつ見られる?】諏訪湖御神渡りの観測時期と2027年の見通し
御神渡りが出現する可能性があるのは、一般に1月から2月上旬にかけての厳冬期です。八剱神社の観測は例年、小寒の1月5日ごろに始まり、立春の2月4日ごろまで続きます。ただし、御神渡りは毎年必ず出現するものではなく、観測期間中に全面結氷しない年もあります。
2026年10月現在、2026年冬の観測シーズンはすでに終了しています。次の機会は、例年の観測日程に沿えば2027年1月ごろからとなります。具体的な開始日や現地の状況は、その冬の八剱神社や諏訪地域の観光関連情報で確認するのが確実です。
現地で観察する場合は、湖畔から安全に眺めることが基本です。諏訪観光協会は、氷の厚さが場所によって異なり、氷上への立ち入りには転落事故の危険があると注意を呼びかけています。全面結氷が確認された場合でも、湖面を歩けるという意味ではありません。
また、過去の御神渡りの写真と、その年のライブ映像を混同しないことも大切です。観光情報に掲載された画像が過去の記録である場合もあるため、訪問前には撮影年や更新日を確かめましょう。御神渡りは出現しても気象条件によって姿が変わり、湖畔から確認できる期間も限られます。
現地へ行くなら、御神渡りが出現したかどうかだけでなく、諏訪湖の冬景色や八剱神社の観測活動、地域に受け継がれてきた神事にも目を向けると、訪問の意味が広がります。
【プロの結論】御神渡りの価値は出現の有無だけでは測れない
2026年の諏訪湖では、全面結氷が確認されながらも御神渡りは現れず、8季連続の「明けの海」となりました。この結果から読み取れるのは、御神渡りが厳しい寒さだけでなく、氷が成長し、割れ、せり上がるまでの条件がそろって初めて現れる現象だということです。
今後の出現を判断する際は、次の3点を分けて確認が必要です。
- 当年の気象条件:気温が十分に下がり、その状態が継続しているか。
- 湖面の実際の状態:全面結氷したか、氷が維持されているか、亀裂や隆起が確認されているか。
- 神社による正式な判断:氷の筋が現れたという目撃情報だけでなく、八剱神社による認定や神事の情報があるか。
この3つを区別すれば、「全面結氷したから今年は御神渡りが見られる」「寒波が来たから出現は確実」といった早計な判断を避けられます。御神渡りの予測では、単日の最低気温だけでなく、寒さがどの程度続くか、湖面の氷がどのように変化するかを総合的に見る必要があります。
加えて、584年にわたる観測の価値は、御神渡りが出現した年だけにあるのではありません。出現しなかった年も含めて記録が積み重なることで、地域の気候や湖の変化を長期的に捉える手がかりになります。2026年の「明けの海」も、その記録の一部として残されます。
御神渡りを待つ人にとって、8季連続の未出現は残念な結果です。しかし、出現しない冬の記録にも意味があり、次の寒い季節に向けて自然の変化を見守ることにつながります。神事と科学的な観測、そして地域の伝承を合わせて理解することが、御神渡りを正しく知るための近道です。
【諏訪湖御神渡り】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:諏訪湖の御神渡りは2026年に出現しましたか?
A1:出現していません。八剱神社は2026年2月4日に「明けの海」を宣言しました。1月26、27日には全面結氷が確認されましたが、御神渡りの形成には至らず、2018年以降8季連続の未出現となりました。
Q2:「明けの海」とはどういう意味ですか?
A2:観測期間中に御神渡りが出現しなかったことを表す言葉です。湖面が一度も凍らなかった場合に限りません。2026年のように全面結氷が確認されても、御神渡りが現れなければ「明けの海」となります。
Q3:御神渡りが最後に出現したのはいつですか?
A3:2018年です。諏訪観光協会の案内では、2018年2月5日に八剱神社による御神渡り拝観神事が行われています。それ以降、2026年まで出現していません。
Q4:御神渡りはいつ見に行けばよいですか?
A4:出現する可能性があるのは、例年1月から2月上旬にかけてです。八剱神社の観測は小寒の1月5日ごろから立春の2月4日ごろまで行われます。ただし、毎年必ず出現するわけではありません。2027年の観測状況は、その冬の最新情報で確認してください。
諏訪湖の御神渡りは、2026年も出現せず、8季連続の「明けの海」となりました。1月下旬には全面結氷が確認されたものの、寒さが続かず、氷の亀裂と隆起が御神渡りとして認定されるまでには至りませんでした。
最後の出現は2018年2月。1443年から続く観測記録では、2026年の未出現によって、戦国時代の1507~1514年に並ぶ最長記録が生まれました。冬季の気温上昇や厳しい冷え込みの減少は、御神渡りが現れにくくなった背景として注目されています。
次の観測シーズンは、例年通りなら2027年1月ごろに始まります。湖面が全面結氷したかどうかだけでなく、氷の状態が維持されているか、御神渡りの筋が形成されたか、八剱神社がどのように判断したかを確認することが大切です。
御神渡りは、自然が生み出す氷の現象であると同時に、諏訪地方の伝説や神事、長い観測の歴史をつなぐ存在です。出現した年だけでなく、現れなかった年の記録にも目を向けることで、諏訪湖の変化と地域文化の価値をより深く理解できます。