『このミステリーがすごい!』は、宝島社が刊行するミステリー小説のブックガイドで、1988年の創刊以来、国内外の注目作をランキング形式で紹介してきました。通称は「このミス」。国内編・海外編の順位だけでなく、作家インタビューや作品紹介を通じて、次に読む一冊を探せる定番のミステリーランキングです。
2026年版は2025年12月5日に発売され、国内・海外のミステリーランキングに加え、作家やゲーム関係者による対談、江戸川乱歩作品の特集などを収録しています。一方、名前がよく似た「このミステリーがすごい!大賞」は、新人作家の作品を募集する別の制度です。歴代ランキングの見方から投票方式、2021年版からの選考対象の変更まで、両者を混同しやすいポイントを整理します。
【基本情報】『このミステリーがすごい!』は1988年に始まったランキング企画

『このミステリーがすごい!』は、宝島社の前身にあたるJICC出版局から刊行された1988年版を起点とするミステリーのブックランキングです。作品の順位だけを発表するのではなく、ミステリーをめぐる評論、覆面座談会、作家へのインタビュー、作品ガイドなどを組み合わせてきました。
創刊編集者は石倉笑、企画者は茶木則雄として知られています。企画の背景には、年末のミステリーランキングをめぐる問題意識がありました。石倉は『週刊文春』の年末企画「傑作ミステリーベスト10」に違和感を抱いたことから、新しいランキング企画を始めたと伝えられています。
この経緯から読み取れるのは、単に人気作品を並べるのではなく、ミステリーを読む人々の評価を集め、読者がまだ知らない作品にも光を当てるという企画の性格です。
2026年版の基本情報『このミステリーがすごい!2026年版』
宝島社・公式書誌情報より
発売日:2025年12月5日
価格:900円(税込)
判型:A5判
ページ数:208ページ
ISBN:978-4-299-07387-7
2026年版の表紙を飾るのは、ゲーム『都市伝説解体センター』の描き下ろしイラストです。巻頭ではゲーム開発チームの墓場文庫、集英社ゲームズの関係者と、ミステリー作家の今村昌弘、円居挽による対談が掲載されています。
加えて、伊吹亜門、古泉迦十、坂上泉、白川尚史による歴史・時代ミステリーの座談会や、ミステリー作家44名が投票した「この江戸川乱歩がすごい!」ベスト10も収録されています。
ランキングだけでなく、ミステリーというジャンルそのものを楽しむためのガイドブックという点が、長年支持されている理由の一つです。
【投票方式とランキングの仕組み】国内編・海外編はどう決まる?
『このミステリーがすごい!』の順位は、読者全員による人気投票でも、編集部の一存だけで決まるランキングでもありません。
文学賞・ランキングの選考記録をまとめた『文学賞の世界』によると、編集部が「読書のプロ」と認めた読書家などにアンケートを依頼し、それぞれが選んだベスト6を得点化して集計する方式が採られています。
投票の流れ前年11月から当年10月までに刊行された、広義のミステリー作品が基本的な選考対象です。
編集部が認めた読書家らが、対象作品の中から評価する作品を選びます。
投票結果を得点化し、作品ごとの評価を集約します。
日本の作品を中心とした国内編と、海外作品を対象とする海外編に分けて順位を公表します。
この方式の特徴は、特定の一人の評価だけでなく、複数の読書家による評価を集約する点にあります。ただし、投票者の読書経験や作品の好みが順位に反映されるため、ランキングが絶対的な正解を示すわけではありません。
また、対象期間を理解することも大切です。2026年版という名称は、2026年に刊行された小説だけを評価しているという意味ではありません。2026年版は2025年12月に発売され、2025年のミステリー作品を振り返る年次企画です。
国内編と海外編を分けることで、日本の作家による作品と翻訳ミステリーをそれぞれ比較できる点も、このランキングの利点です。
【歴代ランキング】2026年版の1位と過去の名作を比較
歴代ランキングを調べる際には、作品名だけでなく、何年版で1位になったのかを確認が必要です。発売年と年版の数字が一致しないため、検索結果を比較するときには注意が必要です。
2026年版の国内編では櫻田智也『失われた貌』、海外編ではリチャード・デミング『私立探偵マニー・ムーン』が1位に選ばれています。
国内編1位:『失われた貌』
櫻田智也
顔を潰された死体の発見をきっかけに、過去の失踪や新たな殺人事件が交錯するミステリー。2026年版の国内編トップを飾りました。
海外編1位:『私立探偵マニー・ムーン』
リチャード・デミング
私立探偵マニー・ムーンが、弁護士の殺害事件をめぐる謎に向き合う作品。海外ミステリーの入口として注目したい一冊です。
以下は、各年版の国内編1位を中心にまとめた歴代ランキングの一部です。
※歴代順位は各年版のランキングを示しています。年版と実際の発売年は異なる場合があります。
歴代ランキングはどう活用すべきか歴代1位の作品を読む方法は、ミステリー初心者にとって有効です。複雑なトリックを楽しむ本格ミステリー、社会問題を描く社会派、犯罪捜査を中心とした警察小説、心理描写を重視するサスペンスなど、作品ごとの特色を比較できます。
一方、1位だけを追いかけると、上位に入らなかった良作を見落とす可能性があります。ベストテン全体や、投票者の推薦コメント、作品紹介も参考にすると、自分の好みに合う本を見つけやすくなります。
海外編も同様です。翻訳ミステリーは、原著の刊行時期と日本語版の刊行時期が異なることがあります。ランキングを確認する際は、作品の日本語版の刊行年と年版の対応を意識すると混乱を防げます。
【2021年版からの変更】宝島社の刊行物も選考対象に
『このミステリーがすごい!』の歴史を振り返るうえで、重要な節目となったのが2021年版です。
それまで宝島社の刊行物は、公平性への配慮からランキングの対象外とされていました。しかし、2021年版からは宝島社の刊行物も投票対象に加わっています。
これは、特定の出版社の作品を除外する従来の扱いから、対象作品の範囲を広げた変更です。宝島社が刊行するミステリー作品も、ほかの出版社の作品と同じランキングの枠組みで評価されるようになりました。
変更によって何が変わったのかこの変更を理解するうえで大切なのは、投票対象の範囲が変わったことと、ランキングの順位を決める投票方式そのものを変えたことは別問題だという点です。
2021年版からの変更は、宝島社の刊行物を投票対象に含めるというものです。それだけで、特定の作品が優遇されるようになった、あるいはランキング全体の信頼性が失われたと断定することはできません。
一方で、出版社自身が刊行する作品を対象に含める以上、選考対象の透明性や投票ルールの明確さは、ランキングの信頼を考えるうえで重要な論点です。
評判と選考の経緯をどう見るべきか『このミステリーがすごい!』は長年続くランキングとして知名度があり、書店での選書や読書計画にも活用されています。ただし、投票者による評価を集計する方式である以上、順位には一定の主観性が含まれます。
ランキングへの評価を考える際は、次の3点を押さえると判断しやすくなります。
- 選考対象の範囲: どの期間に刊行された作品が対象なのか。
- 評価する人: 一般読者の人気投票なのか、読書のプロなどによる投票なのか。
- 順位の意味: 絶対的な作品評価なのか、特定の選考条件のもとで集約された評価なのか。
この3点を理解しておけば、ランキングの順位を過度に絶対視することなく、作品選びの指標として活用できます。
なお、2009年からは黒猫探偵「ニャームズ」も登場しています。ランキングだけでなく、誌面のキャラクターや特集企画を含めて楽しめる点も、ブックガイドとしての特徴です。
【大賞との違い】ランキング企画と新人賞は別の制度
「このミステリーがすごい!」を調べていると、「このミステリーがすごい!大賞」という名前も頻繁に見かけます。両者は同じ宝島社が関わる企画ですが、目的も選考方法も異なります。
『このミステリーがすごい!』
すでに刊行されたミステリー作品を対象に、投票によって国内編・海外編の順位を決める年次企画です。読者が次に読む本を探すためのブックガイドとして機能します。『このミステリーがすごい!』大賞
2002年に創設された新人賞です。未刊行のオリジナル作品を募集し、選考を通じて新しいミステリー作家やエンターテインメント作品を発掘します。
宝島社の公式大賞サイトによると、大賞には賞金1,200万円、文庫グランプリには賞金200万円が設定されています。受賞作品の書籍刊行も制度の柱です。
大賞は、完成した作品を読者に紹介するだけではなく、これから活躍する作家を見つけ、出版につなげることを目的としています。
『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作大賞からは、商業出版や映像化などを通じて広く知られるようになった作品が生まれています。
- 『四日間の奇蹟』/浅倉卓弥: 第1回大賞の金賞受賞作。第1回では東山彰良の『逃亡作法 TURD ON THE RUN』も銀賞に選ばれました。
- 『チーム・バチスタの栄光』シリーズ/海堂尊: 大賞出身作家の代表的なシリーズの一つです。
- 『さよならドビュッシー』/中山七里: 大賞出身作家による作品で、映画化・テレビドラマ化もされています。
- 『元彼の遺言状』/新川帆立: 大賞出身作家による作品で、2022年にテレビドラマ化されました。
これらは「ランキングで上位に選ばれた作品」とは意味が違います。ランキングは刊行作品を評価するものであり、大賞は応募作品の中から新しい才能を見いだすものです。
2026年の大賞発表にも注目宝島社の公式大賞サイトでは、2026年10月1日に第25回『このミステリーがすごい!』大賞の結果が発表されました。
発表時の大賞は、白峰仁の『四グラムの断罪』。文庫グランプリには、一戸了の『密室少女とノーマッド』と、織戸久貴の『嘘と魔法の庭』が選ばれています。
これは2026年版の年間ランキングとは別の発表です。同じ名称を含むため混同されやすいものの、一方は刊行作品のランキング、もう一方は新人賞の選考結果と覚えておくと整理できます。
【プロの結論】ランキングは「正解」ではなく、読書の地図として使う
『このミステリーがすごい!』を活用する際に最も大切なのは、1位の作品だけを追うのではなく、自分の好みを見つけるための手掛かりとして使うことです。
ランキングには、複数の読書家による評価が集約されています。そのため、自分では手に取らなかった作品や、知らなかった作家と出会うきっかけになります。
ただし、ランキングの順位が低い作品でも、自分にとっては忘れられない一冊になることがあります。反対に、1位の作品でも、好みの作風と合わないことはあります。
読者タイプ別のおすすめの使い方
ミステリー初心者
まずは最新年版の国内編1位から読み、気に入ったら2位・3位へと広げる方法がおすすめです。作品紹介を読んでから選ぶと、作風のミスマッチを減らせます。
海外ミステリーを開拓したい人
海外編の上位作品を入口にすると、翻訳ミステリーの新しい作家やシリーズに出会えます。日本語版の刊行情報も合わせて確認しましょう。
名作を体系的に読みたい人
1988年版からの歴代ランキングを年代別に追う方法が向いています。ミステリーの流行や、作家・作品の評価の変化を比較できます。
作家志望者
ランキングだけでなく、新人賞である『このミステリーがすごい!』大賞の応募要項や選評も参考になります。読者が求める作品の傾向と、応募作品に求められる条件を区別して考えることが大切です。
一方で、順位だけを基準に本を選びたい人や、ランキングを作品の絶対的な優劣を示すものとして捉えたい人には、投票形式の性格が合わない場合もあります。順位に加えて、あらすじ、ジャンル、作家の過去作を確認することで、ランキングをより有効に活用できます。
【このミステリーがすごい】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『このミステリーがすごい!』は毎年いつ発売されますか?
A1:例年、年末に翌年版が刊行されます。2026年版は2025年12月5日に発売されました。年版と実際の発売年が異なる点に注意してください。
Q2:国内編と海外編は、どちらから読むのがおすすめですか?
A2:日本の作家の作品を中心に探したい人は国内編、翻訳ミステリーを開拓したい人は海外編がおすすめです。初めて読む場合は、各部門の1位や上位作品から選ぶと、選書の入口を作りやすくなります。
Q3:「このミステリーがすごい!大賞」の受賞作は、ランキングにも必ず入りますか?
A3:必ず入るわけではありません。大賞は応募作品から新人作家や新作を選ぶ公募賞で、ランキングは刊行された作品を投票で評価する企画です。目的も選考の仕組みも異なるため、大賞受賞と年間ランキング入りは別の評価です。
Q4:2021年版から、ランキングの選考対象はどう変わりましたか?
A4:それまで対象外だった宝島社の刊行物も、2021年版から投票対象に加わりました。変更されたのは選考対象の範囲であり、それだけで特定作品の順位や評価が決まるわけではありません。
『このミステリーがすごい!』は、1988年の創刊から続く宝島社のミステリーガイドです。国内編・海外編のランキングを軸に、読書のプロなどによる投票を集約し、年ごとの注目作を紹介してきました。
2026年版の国内編1位は櫻田智也『失われた貌』、海外編1位はリチャード・デミング『私立探偵マニー・ムーン』です。また、2021年版からは宝島社の刊行物も投票対象に加わっています。
そして、刊行作品のランキングと、2002年創設の新人賞「このミステリーがすごい!大賞」は別の制度です。この違いを理解すれば、歴代ランキングを調べたい人も、新人賞の受賞作を読みたい人も、目的に合った情報を探しやすくなります。
まずは最新年版の上位作品を一冊読んでみる。気に入ったら過去のランキングや海外編へ広げていく。その積み重ねが、長い歴史を持つ「このミス」を最大限に楽しむ方法です。