退職届と退職願は、どちらも会社を辞める際に提出する書類ですが、重要な違いは、退職の意思を確定的に伝えるのか、会社に退職の承認を求めるのかという点にあります。書類の名称だけで法的効力が決まるわけではなく、記載内容や提出時の状況、会社側の対応によっても扱いが変わります。
2026年現在、退職手続きを進める際には、民法627条による退職のルール、就業規則に定められた申出期間、提出後に撤回できる条件を理解しておくことが大切です。この記事では、退職届と退職願の使い分けから、提出するタイミング、書き方と例文、会社が受け取らない場合の対処法まで、実務に即して解説します。
【まず結論】退職届と退職願の違いは?法的効力と使い分けを比較

退職届と退職願の違いを理解するには、書類の名称だけでなく、会社に何を伝えるための書類なのかを押さえる必要があります。
一般的な実務では、退職願は会社に退職を認めてもらうための申込み、退職届は退職する意思を明確に伝えるための通知として使われます。前者は会社との合意を前提とするケースが多く、後者は労働者からの一方的な退職の意思表示として扱われるケースが多いのが特徴です。
厚生労働省の労働条件に関する解説でも、合意退職と、労働者側からの解約申入れによる退職は区別されています。実際の法的判断では、タイトルが「退職願」か「退職届」かだけでなく、書面の内容や提出時の事情が重要になります。
| 比較項目 | 退職願 | 退職届 |
|---|---|---|
| 基本的な意味 | 会社に退職の承認を求める申込み | 退職する意思を明確に伝える通知 |
| 会社との関係 | 合意による退職を目指す場面で使われる | 労働者側から退職を申し入れる場面で使われる |
| 提出するタイミング | 退職について上司や会社と相談し、合意を目指す段階 | 退職の意思と退職日を明確に伝える段階 |
| 撤回の可否 | 合意退職の申込みであれば、会社の承諾前は撤回できる場合がある | 一方的な退職の意思表示として到達した場合、原則として一方的な撤回は難しい |
| 会社の承認 | 合意退職として扱う場合は、会社の承諾が重要 | 無期労働契約の解約申入れとして有効であれば、会社の承認がなくても法律上の効力が生じ得る |
| 向いている場面 | 退職日などを会社と相談して決めたい場合 | 退職の意思が固まっており、明確に通知したい場合 |
※上表は一般的な使い分けです。退職願でも内容によっては一方的な退職の意思表示と判断されることがあり、退職届でも合意退職の申込みと解釈される場合があります。
迷ったときは、まず就業規則や社内の退職手続きマニュアルを確認しましょう。会社指定の書式がある場合は、それに従うのが実務上の基本です。ただし、会社独自の手続きがあることと、法律上の退職の効力が生じる条件は、分けて考える必要があります。
【法的効力を解説】民法627条と退職の意思表示はどう関係する?
退職届の法的効力と退職願の法的効力を理解するうえで、中心となるのが民法627条です。同条は、期間の定めのない雇用契約について、当事者が解約を申し入れることができる旨を定めています。
厚生労働省の労働契約に関する案内では、無期労働契約の場合、退職の申出から原則として14日を経過すると労働契約が終了することが説明されています。会社が退職に同意しない場合でも、法律上の要件を満たす退職の意思表示であれば、会社の承認がなければ絶対に辞められないというわけではありません。
ただし、退職に関するルールは契約形態によって異なります。次の3点を確認してください。
- 無期労働契約:民法627条が基本となり、退職の申入れから原則14日で契約が終了します。
- 有期労働契約:契約期間の途中で辞める場合は、原則として民法628条の「やむを得ない事由」などを確認する必要があります。契約期間が1年を超える場合には、労働基準法137条に基づく例外もあります。
- 就業規則に退職申出期間がある場合:1か月前などの規定があれば、引き継ぎや人員配置を考慮して、まずはその手続きに沿うのが実務上望ましい対応です。
特に注意したいのが、就業規則に「退職日の1か月前までに申し出ること」と書かれているケースです。厚生労働省の案内では、就業規則の内容が合理的であれば従う必要があると説明される一方、退職の自由を著しく制限する規定は無効となり得ることも示されています。規定の内容や契約形態によって判断が変わるため、一律に「法律上は必ず2週間でよい」と考えるのは避けましょう。
また、民法627条2項では、期間によって報酬が定められている場合の解約申入れについて、報酬期間との関係を定めています。月給制などでは適用関係が問題になることもあるため、希望する退職日を確実に設定したい場合は、給与の定め方も含めて確認するのが安全です。
なお、退職の意思表示と会社による退職勧奨は別の問題です。会社から退職を勧められている場合、本人が自ら辞める意思を示したのか、会社側の働きかけによる合意退職なのかによって、離職理由などにも影響することがあります。退職届を急いで提出する前に、書類の意味を確認してください。
【提出タイミング】退職願・退職届はいつ出す?就業規則との関係
退職願を提出するタイミングは、退職日について会社と相談し、合意を目指したい段階が基本です。一方、退職届は、退職の意思が固まり、退職日を明確に伝える段階で提出するのが一般的です。
ただし、会社によっては、退職の意思を上司に伝えた後、退職願を提出し、会社の承認を経て退職届や社内申請書を提出する手順を採用していることもあります。書類の名称や提出順序は企業ごとに異なるため、社内規定を確認しましょう。
提出時期を決める際は、次の順番で進めると、退職日の認識違いや手続き上のトラブルを防ぎやすくなります。
- 就業規則を確認する。退職の申出期限、提出先、会社指定の様式、退職日の決め方を確認します。
- 上司や人事担当者に相談する。退職希望日、業務の引き継ぎ、有給休暇の取得予定などを整理します。
- 提出する書類を選ぶ。会社との合意を目指すのか、退職の意思を明確に通知するのかを考えます。
- 退職日と提出日を記載する。日付に誤りがないか、会社との認識が一致しているか確認します。
- 提出した証拠を残す。提出日や提出先、受領の有無が分かる記録を保管します。
退職の申出は、法律上の最低限の期間だけでなく、業務の引き継ぎや社内手続きも考慮して進めることが望まれます。転職先への入社日が決まっている場合は、退職日との間に余裕を持たせ、社会保険や雇用保険の手続きにも支障が出ないよう調整してください。
一方で、会社が「後任が見つかるまで退職を認めない」と伝えてきたとしても、それだけで退職の効力が無期限に先送りされるわけではありません。会社との調整が難航している場合は、口頭のやり取りだけで済ませず、退職の意思表示と希望日を記録に残すことが大切です。
【書き方と例文】退職届・退職願のテンプレートを紹介
退職届と退職願の書き方は、基本的な構成が似ています。一般的には、提出日、宛名、所属部署と氏名、表題、退職の意思を示す本文を記載します。会社指定の書式がある場合は、その指示を優先してください。
用紙や封筒については、白い便箋やA4・B5程度の用紙、白い封筒などが一般的です。手書きの場合は黒のボールペンや万年筆などを使い、誤字や修正跡が残らないように作成します。縦書きが慣例となっている職場もありますが、会社指定の様式があれば、それに従えば問題ありません。
退職願の例文退職願は、会社に退職を申し込み、退職日などについて合意を求める場合に使います。以下は一般的な例文です。
退職願
私儀
このたび、一身上の都合により、2026年12月31日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。
2026年11月1日
株式会社〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇 殿
〇〇部〇〇課
氏名 〇〇 〇〇
退職願では「退職いたしたく、お願い申し上げます」など、退職を申し込む表現を使います。会社との合意を前提とする書面であることが伝わるようにするのがポイントです。
退職届の例文退職届は、退職する意思を明確に伝えるための書類です。退職日が決まっている場合は、日付を具体的に記載します。
退職届
私儀
このたび、一身上の都合により、2026年12月31日をもって退職いたします。
2026年11月1日
株式会社〇〇
代表取締役社長 〇〇 〇〇 殿
〇〇部〇〇課
氏名 〇〇 〇〇
「退職いたします」という表現は、退職する意思を明確に伝えるためのものです。ただし、退職届という表題にしただけで、あらゆるケースで一方的な退職の意思表示になるとは限りません。合意退職の申込みとして扱われる場合もあるため、法的な意味を重視する場合は、本文の内容と提出状況に注意してください。
作成時に気をつけたいポイント- 退職日と提出日を混同しない。
- 会社名や代表者名、所属部署、氏名に誤りがないか確認する。
- 退職理由は、通常「一身上の都合により」と簡潔に記載する。
- 会社指定の様式がある場合は、独自の書式よりも指定様式を優先する。
- 提出前に控えを作成し、提出日や受領状況を記録しておく。
なお、会社から退職を勧められた場合や、ハラスメントなどを理由に退職する場合は、必ずしも「一身上の都合」と記載することが適切とは限りません。離職理由の扱いに関わることがあるため、退職に至った経緯を記録し、必要に応じて労働相談窓口などに相談しましょう。
【撤回・受理拒否への対応】退職届を撤回できる?会社が受け取らない場合は?
退職届は一度提出すると絶対に撤回できない、という説明は正確ではありません。一方で、提出した書類をいつでも自由に取り消せるわけでもありません。撤回できるかどうかは、退職の意思表示が合意退職の申込みなのか、一方的な退職の意思表示なのか、会社側がどのように対応したのかによって変わります。
退職願の撤回方法退職願が合意退職の申込みとして扱われる場合、会社が承諾する前であれば、原則として申込みを撤回できる場合があります。ただし、会社の権限ある担当者がすでに承諾している場合や、撤回が信義に反すると判断される事情がある場合などは、結論が異なることがあります。
厚生労働省が紹介する裁判例には、退職願を提出した後、会社側の承諾が本人に到達する前に撤回したケースと、退職承認の権限を持つ人事担当者が退職願を受理した後の撤回が争われたケースがあります。こうした事例は、書類のタイトルだけでなく、誰に提出したか、誰に承諾権限があったかが重要であることを示しています。
撤回したい場合は、できるだけ早く、上司や人事担当者に対して撤回の意思を明確に伝え、書面やメールなど記録に残る形で通知してください。すでに会社が承諾している場合は、一方的な撤回が認められない可能性があるため、会社との合意を目指す必要があります。
退職届は撤回できる?退職届が、無期労働契約を終了させる一方的な退職の意思表示として会社に到達した場合、原則として、提出した本人が一方的に撤回することは難しくなります。退職の意思表示が会社に到達した後は、会社の同意が必要になる場合があるためです。
反対に、書類が合意退職の申込みとして扱われる場合は、会社の承諾がなされるまで撤回できることがあります。退職届という名称だけを理由に「必ず撤回できる」「絶対に撤回できない」と判断するのは避けましょう。
退職届が受理されない場合の対応会社が退職届を受け取らない場合でも、直ちに退職できなくなるわけではありません。無期労働契約について、退職の意思表示が法律上有効に行われているかどうかが重要です。会社側が受理を拒否している場合は、次の対応を検討してください。
- 就業規則と雇用契約を確認する。申出期限や提出先、契約期間の定めを確認します。
- 提出の経緯を記録する。提出日時、提出先、受領を拒否された状況、関連するメールなどを保存します。
- 書面で退職の意思を伝える。口頭のやり取りだけでは記録が残りにくいため、退職日と意思表示を明確にします。
- 必要に応じて郵送する。会社が受領を拒む場合は、配達証明付き内容証明郵便など、発送内容や配達状況を記録できる方法を検討します。
- 公的な相談窓口を利用する。退職を認めない、強い引き止めが続くなどの問題がある場合は、総合労働相談コーナーなどに相談します。
内容証明郵便は、どのような内容の文書を差し出したかを証明するための手段であり、それ自体が退職の法的効力を保証するものではありません。退職の意思表示がいつ、誰に到達したかなどが問題になる場合もあるため、郵送記録や配達状況を保管し、必要に応じて専門家に確認してください。
また、会社から退職届の提出を強く迫られている場合や、退職を申し出たことを理由に脅迫的な言動を受けている場合は、安易に署名・提出しないことが大切です。自分の意思による退職なのか、会社の働きかけによる退職なのかによって、法的な評価や離職理由が変わることがあります。
【プロの結論】自分に合う書類を選び、退職トラブルを防ぐ判断基準
退職届と退職願の使い分けで大切なのは、書類の名前よりも、自分がどのような形で退職したいのかを明確にすることです。退職日を会社と相談しながら決めたいのか、退職の意思がすでに固まっていて明確に通知したいのかによって、適した書類は変わります。
判断に迷った場合は、次の基準を参考にしてください。
- 退職日を会社と相談して決めたい人:まず上司や人事担当者に相談し、会社の手続きに従って退職願などを提出する方法が考えられます。
- 退職の意思が固まっている人:就業規則や雇用契約を確認したうえで、退職日を明記した退職届などにより、意思表示を明確にします。
- 提出後に気持ちが変わる可能性がある人:退職の意思を示す前に、退職日や転職先、生活面の準備を慎重に検討します。提出後は撤回が容易とは限りません。
- 会社が退職を認めない人:受理されないからといって諦めず、契約形態や意思表示の有効性を確認し、書面で記録を残しながら公的窓口などに相談します。
- 有期契約で働いている人:契約期間の途中で退職する場合のルールを確認し、無期契約と同じ考え方で進めないようにします。
よくある誤解の一つは、「退職届なら会社の許可が不要で、退職願なら必ず会社の承認が必要」というように、表題だけで法的な結論が決まると考えることです。実際には、退職の意思表示の内容、会社側の承諾の有無、雇用契約の種類などが判断に関わります。
もう一つの誤解は、民法627条の「14日」という期間だけを見れば、すべての退職日を一律に決められるという考え方です。契約期間の定め、給与の定め方、就業規則、会社との合意の有無などによって確認すべき点が異なります。法律上の原則と、実際の退職手続きを分けて理解することが、トラブルを避ける近道です。
【退職届と退職願の違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:退職届と退職願はどちらを先に提出すればよいですか?
A1:会社の退職手続きによって異なります。退職願を提出して会社と退職日などを合意し、その後に退職届や社内申請書を提出する会社もあります。まず就業規則や人事担当者の案内を確認しましょう。
Q2:退職届を会社が受理しなければ、退職できませんか?
A2:必ずしもそうではありません。無期労働契約の場合、法律上有効な退職の意思表示であれば、会社が受理を拒んでも退職の効力が生じ得ます。提出先や意思表示の内容、契約形態などを確認し、必要に応じて記録が残る方法で通知してください。
Q3:退職願を提出した後に撤回できますか?
A3:合意退職の申込みとして提出した場合、会社が承諾する前であれば撤回できる場合があります。ただし、会社の承諾権限を持つ担当者がすでに承諾している場合などは、撤回が難しくなることがあります。できるだけ早く撤回の意思を伝え、記録に残してください。
Q4:退職届に退職理由を詳しく書く必要はありますか?
A4:一般的な自己都合退職であれば、「一身上の都合により」と簡潔に記載する方法が広く使われています。ただし、会社からの退職勧奨やハラスメントなどが関係している場合は、離職理由の扱いにも注意が必要です。
Q5:退職届は退職日の何日前までに提出すればよいですか?
A5:まず就業規則や雇用契約に定められた申出期間を確認してください。無期労働契約では民法627条により原則14日で契約が終了する仕組みがありますが、契約形態や給与の定め方などによって確認が必要です。実務上は引き継ぎ期間も考慮して、早めに相談するのが望ましい対応です。
退職届と退職願の違いは、一般的には、退職の意思を明確に通知するのか、会社に退職の承認を求めるのかという点にあります。しかし、実際の法的効力は書類の名称だけで決まるものではなく、記載内容や会社側の承諾状況、雇用契約の種類などによって変わります。
退職手続きを始める際は、就業規則と雇用契約を確認し、退職日や引き継ぎの予定を整理したうえで、自分の状況に合う書類を選びましょう。提出後に撤回したい場合や、会社が受理を拒む場合には、早めに記録を残し、必要に応じて公的な労働相談窓口や専門家の助言を受けることが大切です。
退職は、書類を提出するだけで終わる手続きではありません。法的なルールと会社の手続きを正しく理解し、退職日、引き継ぎ、必要書類の受け取りまで計画的に進めることが、次の仕事や生活への円滑な移行につながります。