退職願と退職届の違いは、基本的に「会社に退職を願い出る書類」なのか、「退職する意思を明確に伝える書類」なのかという点にあります。ただし、法律上の効力は書類の表題だけで決まるわけではありません。本文の内容や提出時の事情によって、会社の承諾が必要かどうか、提出後に撤回できるかどうかが変わります。
2026年10月現在、退職をめぐる基本ルールを理解するうえで重要なのが、民法627条と厚生労働省が案内する退職手続きの考え方です。退職届は何日前に出せばよいのか、会社が受け取らない場合はどうするのか、退職願と退職届のどちらを選ぶべきなのか。書き方の見本や例文、辞表との違いも含め、実務で迷いやすいポイントを整理します。
【結論】退職願と退職届の違いを比較!会社の承諾は必要?

退職願と退職届の最も大きな違いは、退職に向けた意思表示の性質です。退職願は会社に退職を認めてもらうための申込み、退職届は退職する意思を明確に伝える通知として使われます。
ただし、実務では両者が厳密に区別されず、退職届という表題でも会社との合意を求める内容になっている場合があります。厚生労働省の「スタートアップ労働条件」でも、退職願という名称の書類が、承諾を求める意思表示にも、一方的な退職の意思表示にもなり得ると説明されています。
そのため、「退職届と書けば必ず会社の承諾が不要になる」「退職願なら必ず撤回できる」と考えるのは危険です。書類の名称と本文の内容を合わせて判断しましょう。
| 比較項目 | 退職願 | 退職届 |
|---|---|---|
| 基本的な目的 | 退職を申し込み、会社と退職日などを調整する | 退職する意思を明確に通知する |
| 一般的な文面 | 「退職いたしたく、お願い申し上げます」 | 「退職いたします」 |
| 会社の承諾 | 合意退職の申込みであれば、原則として承諾が必要 | 一方的な辞職の意思表示であれば、原則として承諾は不要 |
| 提出タイミング | 退職の意思を伝え、退職日などを相談するとき | 退職日が決まった後の手続き、または明確な退職通知が必要なとき |
| 提出後の撤回 | 会社の承諾前なら原則として撤回できる場合がある | 一方的な意思表示が到達した後は、原則として会社の同意なしに撤回できない |
| 向いている場面 | 円満退職に向けて会社と協議したい場合 | 退職の意思が固まり、明確な通知をしたい場合 |
この比較は一般的な使い分けを示したものです。実際の法的効力は、個々の意思表示の内容や状況によって異なります。
迷ったときの判断基準は、「会社と合意して退職日を決めたいのか」「退職する意思を明確に通知したいのか」です。退職日が未調整で、まず話し合いを始めたい場合は退職願が使いやすく、退職の意思が固く、会社の承諾を条件としない通知を行いたい場合は退職届が選択肢になります。
【提出タイミング】退職願・退職届は何日前に出すべき?民法627条を解説
退職願と退職届をいつ提出するかは、退職日、会社の就業規則、雇用契約の種類によって変わります。円満退職を目指すなら、退職日から逆算して、上司への相談、書類提出、引き継ぎ、有給休暇の取得を計画することが大切です。
退職願の提出タイミング退職願は、退職の意思を上司や人事担当者に伝え、退職日や引き継ぎについて相談するときに提出するのが一般的です。まず直属の上司に退職の意向を伝え、その後、会社の手続きに従って書面を提出する流れが考えられます。
会社によっては、口頭での相談後に退職届を提出する方式を採用しており、退職願そのものを必要としていない場合もあります。就業規則や社内の退職手続きを確認しておきましょう。
退職届の提出タイミング退職届は、退職日が合意によって決まった後に、会社の所定手続きを進めるために提出するのが一般的です。一方、会社が退職を認めないなどの事情があり、退職の意思を一方的に通知する必要がある場合にも使われます。
ここで注意したいのが、社内の書類提出期限と法律上の退職の効力が生じる時期は、必ずしも同じではないという点です。
民法627条の「2週間」はどう考える?民法627条第1項では、期間の定めのない雇用契約について、解約の申入れから2週間が経過すると雇用が終了すると定めています。厚生労働省の「確かめよう労働条件」でも、無期労働契約では、会社の承認がなくても原則として申入れから2週間で退職となる旨が案内されています。
つまり、一般的な無期雇用の労働者については、法律上の原則として「退職届は必ず1か月前でなければ無効」というわけではありません。ただし、実際の退職日をめぐるトラブルを避けるため、就業規則の合理的な手続きや会社との調整を確認することが望まれます。就業規則の定めが法律上どこまで有効かは、個別の事情によって判断が分かれることもあります。
なお、民法627条第2項・第3項にある報酬期間に関する規定は、条文上、使用者からの解約申入れについて定めたものです。月給制だからといって、労働者の退職に一律に「給与計算期間の前半に申し出なければならない」というルールが適用されるわけではありません。
一方、契約期間があらかじめ定められている有期雇用では、契約期間の途中で退職する場合、原則として民法628条の「やむを得ない事由」などを考慮する必要があります。1年を超える有期労働契約については、労働基準法137条が適用される場合もあります。契約形態によって条件が異なるため、無期雇用のルールをそのまま当てはめないようにしましょう。
【撤回できる条件】退職願と退職届は提出後に取り消せる?
退職を申し出た後に気持ちが変わった場合、撤回できるかどうかは重要な問題です。一般的には、合意退職を申し込む退職願と、一方的な辞職の意思表示としての退職届では、撤回の考え方が異なります。
退職願は会社の承諾前なら撤回できる場合がある退職願が「会社に退職を認めてほしい」という合意退職の申込みであれば、会社が承諾する前は、原則として撤回できる場合があります。しかし、会社側の承諾が有効に成立した後は、本人の都合だけで自由に撤回できるわけではありません。
また、上司が退職願を受け取ったという事実だけで、直ちに会社の承諾が成立したとは限りません。誰に承諾権限があるのか、会社がどのような意思表示をしたのかなど、具体的な事情を確認する必要があります。
退職届は到達後の撤回が難しい退職届が会社に対する一方的な辞職の意思表示として作成され、相手方に到達した場合、原則として本人の一存では撤回できません。撤回には会社の同意が必要となるのが基本です。
ただし、退職届という表題が付いていても、実際には会社との合意を求める申込みと評価される場合があります。逆に、退職願という表題でも、内容が明確な一方的辞職の意思表示と評価されることがあります。判断の基準は、表題だけではなく文面と提出時の事情です。
退職を強要された場合は別の問題になる会社から強い圧力を受けて退職願や退職届を提出した場合、単なる撤回の問題ではなく、意思表示の取消しなどが問題となる可能性があります。広島県の労働相談情報でも、強迫に当たるほどの強要があった場合には、退職の意思表示の取消しを主張できる可能性があると説明されています。
退職を迫られた場合は、その場で書類に署名せず、発言内容、日時、メール、面談記録などを保存してください。すでに提出した書類の効力を争いたい場合は、労働問題に詳しい弁護士や公的な労働相談窓口に早めに相談が必要です。
【書き方・見本】退職願と退職届のテンプレート・退職理由の例文
退職願と退職届には、一般的な書式があります。法律で全国一律の用紙や厳密な書式が定められているわけではありませんが、会社指定の様式がある場合は、まずその書式に従いましょう。
退職願の書き方・見本退職願では、退職を希望していることを伝える文面にします。自己都合で退職する場合の一般的な例文は次のとおりです。
【退職願のテンプレート】
退職願
私儀
このたび、一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。
令和○年○月○日
所属部署:○○部○○課
氏名:○○ ○○
○○株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
提出日、所属部署、氏名、会社名、宛名は、会社の書式や慣例に合わせて調整してください。縦書き・横書きの指定がある場合も、社内ルールを優先します。
退職届の書き方・テンプレート退職届は、退職する意思を明確に伝える文面にします。会社との合意によって退職日が決まっている場合などに使う一般的な例文は次のとおりです。
【退職届のテンプレート】
退職届
私儀
このたび、一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたします。
令和○年○月○日
所属部署:○○部○○課
氏名:○○ ○○
○○株式会社
代表取締役 ○○ ○○ 殿
退職届では、退職日を明確に記載することが大切です。ただし、会社と退職日について合意が成立しているケースと、一方的な辞職の意思表示をするケースでは、文面の意味が異なります。提出前に、自分がどの意思表示を行うのかを確認してください。
退職理由の書き方・例文自己都合による一般的な退職では、「一身上の都合により」と記載する方法が広く用いられています。転職、家庭の事情、キャリアの変更など、詳細な理由を退職届に書かずに済むケースでは、この表現が使われます。
一方、会社都合による退職や、退職勧奨、ハラスメント、労働条件の相違などが関係している場合は、事実と異なる理由を安易に記載しないでください。退職理由の記載内容が、雇用保険上の離職理由をめぐる確認に影響する可能性があります。
具体的な事情がある場合は、例えば「会社からの退職勧奨に応じるため」「提示された労働条件と実際の労働条件が異なるため」など、事実関係に即した表現を検討します。もっとも、書類に記載した理由だけで雇用保険上の離職理由が自動的に決まるわけではありません。会社から退職を強く求められた場合は、書類を提出する前に公的な相談窓口で確認すると安心です。
【会社が受け取らない場合】退職届を拒否されたときの対処法
退職届を提出しようとしても、上司が受け取らない、人事担当者が手続きを進めない、「後任が決まるまで辞められない」と言われるなどのトラブルが起きることがあります。
厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、期間の定めのない雇用契約の場合、会社が退職を認めないと主張しても、法律上の要件を満たした退職の申入れがあれば、原則として申入れから2週間で雇用契約が終了することが案内されています。人手不足や後任者の不在だけを理由に、退職をいつまでも拒み続けられるわけではありません。
まずは書類の提出記録を残す会社が書類の受領を拒否する場合は、提出しようとした日時、相手の氏名、やり取りの内容を記録してください。メールや社内チャットで退職の意思を明確に伝える方法もありますが、送信記録が残っていても、法的な意思表示の内容や到達時期が争点になる可能性はあります。
書面での通知が必要な場合には、内容証明郵便や配達証明を利用する方法が考えられます。内容証明郵便は、どのような内容の文書を差し出したかを証明する仕組みであり、配達証明は配達された事実を確認するためのものです。送付先や文面を誤るとトラブルにつながるため、必要に応じて専門家に相談してください。
会社から引き止められたらどうする?退職を伝えた際に、上司から慰留や引き止めを受けること自体が、直ちに違法になるわけではありません。しかし、退職を認めないと繰り返し告げられる、書類への署名を強要される、脅迫的な言動を受けるなどの場合は、別の法的問題が生じる可能性があります。
会社との話し合いで解決できないときは、厚生労働省の総合労働相談コーナーや、都道府県労働局の相談窓口を利用できます。退職日、給与、未消化の有給休暇、離職票など、退職に伴う複数の問題をまとめて整理しておくと、相談が進めやすくなります。
なお、退職届を出しただけで、貸与品の返却や業務引き継ぎなど、退職日までに必要な対応がすべて不要になるわけではありません。法律上の退職の効力と、退職日までに行うべき手続きは分けて考えましょう。
【辞表との違い】一般社員・役員・公務員では書類が異なる
退職願と退職届に加えて、混同されやすい書類が「辞表」です。辞表は一般的に、会社の役員が役職を辞任するときや、公務員が職を辞するときなどに使われる書類です。
一般の会社員が雇用契約を終了する場合は、通常、退職願または退職届を用います。一方、会社の取締役などは、役員としての地位を辞任する手続きと、従業員としての雇用関係を終了する手続きが別問題になることがあります。
公務員についても、民間企業の一般社員と同じ手続きがそのまま適用されるとは限りません。公務員の退職は、それぞれの身分や関係法令、服務上の規定などを確認する必要があります。
書類の名称だけを見て、自分に適した手続きだと判断するのは避けましょう。会社員であれば会社の就業規則を確認し、役員や公務員であれば、適用される手続きと必要な承認の有無を個別に確認することが大切です。
【退職願と退職届の違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:退職願と退職届はどちらを出すべきですか?
A1:会社と退職日などを相談しながら合意退職を進めたい場合は、退職願が一般的な選択肢です。退職の意思が固まり、一方的な辞職の意思表示を明確に伝えたい場合は、退職届が選択肢になります。ただし、法的効力は書類の表題だけでは決まりません。
Q2:退職届は何日前に出せばよいですか?
A2:期間の定めのない雇用契約では、民法627条第1項により、原則として退職の申入れから2週間で雇用契約が終了します。ただし、会社の就業規則や退職手続きも確認し、可能であれば引き継ぎを含めて早めに調整しましょう。有期雇用では別のルールが適用される場合があります。
Q3:退職願や退職届を提出した後に撤回できますか?
A3:退職願が合意退職の申込みであれば、会社の承諾前は原則として撤回できる場合があります。一方、一方的な辞職の意思表示としての退職届は、会社に到達した後、本人だけの判断で撤回することは原則として困難です。実際の効力は文面や提出時の事情によって異なります。
Q4:会社が退職届を受け取らない場合、退職できませんか?
A4:期間の定めのない雇用契約では、会社が受領や承認を拒否しても、適切な退職の意思表示が成立していれば、原則として申入れから2週間で雇用契約が終了します。提出記録を残し、必要に応じて内容証明郵便や公的な労働相談窓口の利用を検討してください。
Q5:退職理由は必ず詳しく書く必要がありますか?
A5:一般的な自己都合退職では「一身上の都合により」と記載する方法が広く用いられています。ただし、会社都合や退職勧奨などが関係している場合は、事実と異なる理由を安易に書かず、必要に応じて専門家に相談しましょう。
退職願と退職届の違いは、退職を申し込む書類なのか、退職する意思を明確に通知する書類なのかという点にあります。退職願は会社との合意形成に使われ、退職届は一方的な辞職の意思表示として使われるのが一般的です。
ただし、書類の表題だけで会社の承諾の要否や撤回の可否が決まるわけではありません。本文の表現、会社側の承諾、意思表示が相手に到達した時期、退職に至る事情などを踏まえて判断する必要があります。
2026年10月現在、退職手続きを進める際には、次の3点を確認しましょう。
- 会社の就業規則と雇用契約を確認し、退職日から逆算して手続きを進める。
- 民法627条の2週間ルールを理解しつつ、有期雇用など契約形態による違いにも注意する。
- 会社との認識の相違や退職の強要がある場合は、提出記録を保存し、公的な相談窓口や弁護士に相談する。
退職願と退職届のどちらを選ぶかは、書類の名前だけで決めるものではありません。自分の意思を正確に伝え、退職日と必要な手続きを明確にしておくことが、退職時のトラブルを防ぐための基本です。