共分散の求め方を理解するには、公式を暗記するだけでなく、平均からの偏差を掛け合わせる意味と、計算結果が示す関係性を押さえることが大切です。統計学の試験やデータ分析では、共分散の計算式に加え、標本共分散と不偏共分散の違い、分散・相関係数との関係、Excelでの計算方法も頻繁に登場します。
共分散は、2つの変数が一緒に増減する傾向を数値で表す指標です。基本の計算はシンプルですが、分母を「n」にするか「n−1」にするかで答えが変わるため、問題の条件に応じた使い分けが欠かせません。ここでは、具体的な数値を使った例題からExcelの関数、共分散行列まで、順を追って解説します。
【基礎から理解】共分散とは?正の値・負の値が示す意味

共分散とは、2つの変数がそれぞれの平均値からどのように離れているかを調べ、その動きの方向を数値化したものです。英語では「Covariance」と呼ばれ、統計学の基礎から回帰分析、金融データの分析、機械学習まで幅広く利用されています。
例えば、気温とアイスクリームの売上を考えてみましょう。気温が平均より高い日に売上も平均より高く、気温が平均より低い日に売上も平均より低い傾向があれば、共分散は正の値になりやすくなります。一方、気温が高いほど売上が減るような関係なら、共分散は負の値になりやすくなります。
共分散の正負を読み解く共分散の符号は、2つの変数の動きが同じ方向なのか、反対方向なのかを判断する手掛かりになります。
- 共分散が正:一方が平均より大きいとき、もう一方も平均より大きくなる傾向がある。
- 共分散が負:一方が平均より大きいとき、もう一方は平均より小さくなる傾向がある。
- 共分散が0付近:平均からの偏差の積が正負で打ち消し合い、直線的な連動が弱い可能性がある。
ただし、共分散が正だからといって、必ず強い関係があるとは限りません。値の大きさはデータの単位や尺度に左右されるため、異なるデータ同士で共分散の絶対値を比較するのは適切ではありません。
また、共分散が0であっても、2つの変数に何の関係もないとは限りません。例えば、曲線的な関係がある場合、正負の偏差の積が相殺され、共分散が0になることがあります。共分散は主に直線的な連動を捉える指標であり、因果関係を直接証明するものでもありません。
【公式を解説】共分散の計算式と平均・偏差の関係
共分散を求める基本公式は、次のとおりです。
共分散の基本公式
Cov(X,Y) = Σ(xᵢ − x̄)(yᵢ − ȳ) ÷ n
ここで、xᵢとyᵢは同じ観測対象に対応する2つのデータ、x̄とȳはそれぞれの平均値、nはデータ数を表します。Σは、各データについて計算した値をすべて足し合わせる記号です。
この式の要点は、単にXとYの値を掛けるのではなく、それぞれの平均からの偏差を掛け合わせることです。平均からどちらの方向に、どの程度離れているかを調べることで、2つの変数の連動を評価できます。
共分散の計算方法を4つの手順で整理- 各変数の平均を求める。 Xの合計をデータ数nで割り、Xの平均を求めます。Yについても同様に計算します。
- 各データの偏差を計算する。 それぞれのデータから対応する変数の平均を引きます。
- 対応する偏差同士を掛ける。 同じ観測対象のXの偏差とYの偏差を掛け合わせます。
- 積を合計して分母で割る。 全データの偏差の積を合計し、母集団全体の共分散ならn、不偏共分散ならn−1で割ります。
計算を簡略化したい場合は、次の公式も利用できます。
共分散の別形式
Cov(X,Y) = Σxᵢyᵢ ÷ n − x̄ȳ
この式は、各組のデータの積の平均から、Xの平均とYの平均の積を引いたものです。偏差を1つずつ計算する方法と同じ結果になるため、試験の計算問題やデータ分析で役立ちます。
ただし、この別形式も分母がnの共分散を表します。不偏共分散を求める場合は、偏差の積の合計をn−1で割る必要があるため、分母の違いを忘れないようにしましょう。
【例題で実践】共分散の求め方を具体的な計算問題で解説
ここでは、共分散の計算問題を1つ解いてみましょう。XとYについて、次の3組のデータが得られたとします。
- X:1、2、3
- Y:2、4、6
このデータから、分母がnの共分散と、分母がn−1の不偏共分散をそれぞれ求めます。
ステップ1:XとYの平均を求めるXの平均は、(1+2+3)÷3=2です。
Yの平均は、(2+4+6)÷3=4です。
したがって、x̄=2、ȳ=4となります。
ステップ2:平均からの偏差を求めるXの偏差は、1−2=−1、2−2=0、3−2=1です。
Yの偏差は、2−4=−2、4−4=0、6−4=2です。
各データが平均より大きいか小さいかを確認すると、XとYはこの例では同じ方向に変化していることが分かります。
ステップ3:対応する偏差を掛け合わせるそれぞれの偏差を対応する順番で掛けると、次のようになります。
- 1組目:−1 × −2 = 2
- 2組目:0 × 0 = 0
- 3組目:1 × 2 = 2
偏差の積の合計は、2+0+2=4です。
ステップ4:分母を確認して答えを出すデータ数は3なので、分母をnとする場合は次の計算になります。
共分散 = 4 ÷ 3 = 4/3(約1.333)
一方、不偏共分散はn−1=2で割ります。
不偏共分散 = 4 ÷ 2 = 2
このように、同じデータでも分母の選択によって結果が変わります。問題文に「母共分散」「標本共分散」「不偏共分散」のどれが指定されているかを確認し、授業や問題集で採用されている定義に合わせることが大切です。
【混同を防ぐ】標本共分散・不偏共分散・分散・相関係数の違い
共分散の計算で特につまずきやすいのが、分母の違いと、似た統計指標との混同です。分散は1つの変数のばらつきを表し、共分散は2つの変数の連動を表します。相関係数は、共分散を標準偏差で規格化し、尺度の違いを取り除いた指標です。
以下の表では、各指標の役割と計算上の違いを整理します。
| 指標 | 主な計算式 | 用途・注意点 |
|---|---|---|
| 母共分散 | 偏差の積の合計 ÷ n | 対象とする母集団全体の連動を表す。 |
| 標本共分散 | 定義によりnまたはn−1 | 教材によって用語の扱いが異なる場合があるため、分母を確認する。 |
| 不偏共分散 | 偏差の積の合計 ÷(n−1) | 標本から母共分散を推定する際に使う。通常、対応する観測値が2組以上必要。 |
| 分散 | 偏差の平方の合計 ÷ n(母分散の場合) | 1つの変数のばらつきを測る。XとXの共分散は母分散に一致する。 |
| 相関係数 | 共分散 ÷(Xの標準偏差 × Yの標準偏差) | 単位に依存せず、値は−1から1の範囲に収まる。 |
この違いは、計算対象が何かによって判断します。
nで割る方法は、手元のデータ全体を対象として、そのデータにおける共分散を記述したい場合に適しています。母集団全体の値を求める場合も、この形式を使います。
n−1で割る方法は、標本から母共分散を推定する際に使う不偏共分散の計算方法です。標本平均を使って偏差を計算すると、偏差の積の合計は母共分散をそのまま推定するには小さめになりやすいため、n−1で割ることで不偏推定量になります。
なお、「標本共分散」という用語は、教材や分野によって定義が異なる場合があります。ExcelのCOVARIANCE.Sはn−1を使いますが、講義資料や試験問題では公式が明示されていることもあります。名称だけで判断せず、必ず計算式を確認しましょう。
分散と共分散の関係分散は、共分散の特別なケースとして考えられます。同じ変数Xを2つの変数として扱うと、次の関係が成立します。
Cov(X,X) = Var(X)
同じデータの偏差同士を掛けると、偏差の2乗になるためです。したがって、分散は1変数のばらつき、共分散は2変数の連動を扱う指標だと整理できます。
共分散と相関係数は何が違う?共分散の値は、XとYの単位に左右されます。例えば、身長をメートルからセンチメートルに変えると、共分散の数値も変わります。そのため、異なる単位のデータ同士を比較する用途には不向きです。
一方、相関係数は共分散を両変数の標準偏差の積で割って求めます。値の範囲は−1から1で、正負は関係の方向、絶対値は直線的な関係の強さを示す目安になります。
総務省統計局の統計データ活用教材「データ・スタート」でも、相関係数を用いて2つの変数の関係を分析する方法が紹介されています。関係の方向だけを知りたい場合は共分散、単位に左右されず直線的な関係の強さを比較したい場合は相関係数、という使い分けが実践的です。
【Excelで簡単計算】共分散の求め方と関数の使い分け
Excelでは、関数を使うことで共分散を簡単に計算できます。平均や偏差を手作業で求める必要がないため、データ数が多い場合にも便利です。
Microsoft Supportの関数仕様では、母共分散を求めるCOVARIANCE.Pと、標本の共分散を求めるCOVARIANCE.Sが案内されています。どちらも2つのデータ範囲を指定しますが、分母の扱いが異なります。
1. データをExcelに入力する先ほどの例題を使い、A列にX、B列にYの値を入力します。
- A2:1、A3:2、A4:3
- B2:2、B3:4、B4:6
次の数式を任意のセルに入力します。
=COVARIANCE.P(A2:A4,B2:B4)
結果は約1.333333となります。これは偏差の積の合計4をデータ数3で割った値です。
3. 不偏共分散を求める標本から母共分散を推定する目的で不偏共分散を求める場合は、次の数式を使います。
=COVARIANCE.S(A2:A4,B2:B4)
結果は2です。先ほどの例題と同じく、偏差の積の合計4をn−1、つまり2で割っています。
Excelで計算するときの注意点- データ数をそろえる:2つの範囲のデータ数が異なると、エラーが返されます。
- 空白と数値の0を区別する:関数は空白セルなどを無視する一方、数値として入力された0は計算対象にします。
- 分母を確認する:COVARIANCE.Pはn、COVARIANCE.Sはn−1を使用します。
- 古い関数に注意する:従来のCOVAR関数もありますが、Microsoftは新しい関数の利用を案内しています。新規の計算では目的に応じてCOVARIANCE.PまたはCOVARIANCE.Sを選びましょう。
なお、相関係数をExcelで求めたい場合は、CORREL関数を利用できます。共分散を直接計算することと、相関係数を計算することは別の操作なので、必要な指標を取り違えないようにしてください。
【応用編】共分散行列と計算ミスを防ぐポイント
複数の変数を同時に分析するときは、共分散を1つずつ確認するだけでなく、共分散行列としてまとめる方法が役立ちます。共分散行列は、各変数の分散と、変数同士の共分散を行列形式で整理したものです。
共分散行列とは?XとYの2変数の場合、母共分散を用いた共分散行列は次の形で表せます。
Σ = [[Var(X), Cov(X,Y)], [Cov(X,Y), Var(Y)]]
対角成分には各変数の分散が入り、対角線以外の成分には変数同士の共分散が入ります。共分散の定義をそろえていれば、XとYを入れ替えても共分散は同じなので、行列は左右対称になります。
例えば、複数の商品の売上や価格、金融資産の収益率などを同時に扱う場合、共分散行列を使うことで、個々の変数のばらつきと、変数間の連動をまとめて把握できます。多変量解析や機械学習でも基本となる考え方です。
共分散の計算でよくある3つのミスミス1:平均を引かずに掛け算する。 共分散の基本公式では、元のデータではなく、平均からの偏差を掛け合わせます。平均を引き忘れると、別の計算結果になってしまいます。
ミス2:分母を間違える。 nで割る公式とn−1で割る公式は、目的が異なります。特に不偏共分散を求める問題では、最後の除算を間違えないようにしましょう。
ミス3:共分散の大きさだけで関係の強さを判断する。 共分散は単位の変更で数値が変わります。異なる尺度のデータを比較するなら、相関係数などの指標も確認する必要があります。
【プロの結論】公式の暗記より、目的に応じた指標の選択が重要共分散を正しく使うためには、計算手順だけでなく、何を明らかにしたいのかを先に整理が必要です。手元のデータの連動を記述したいのか、標本から母集団の特性を推定したいのかによって、適切な公式は変わります。
データ全体の共分散を把握するならnで割る方法、母共分散の不偏推定を行うならn−1で割る方法が基本です。また、変数間の直線的な関係の強さを比較する場合は相関係数、複数の変数を一括して分析する場合は共分散行列が適しています。
計算問題では「平均を求める」「偏差を求める」「偏差の積を合計する」「指定された分母で割る」という流れを守れば、途中式を確認しながら正確に解けます。Excelを使う場合も、関数名だけでなく、その関数が採用する分母を理解しておくことが、結果の取り違えを防ぐ近道です。
【共分散求め方】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:共分散を求める最も簡単な方法は何ですか?
A1:XとYそれぞれの平均を求め、各データから平均を引いて偏差を計算します。対応する偏差同士を掛けて合計し、母共分散ならn、不偏共分散ならn−1で割ります。Excelを使う場合は、COVARIANCE.P関数またはCOVARIANCE.S関数でも計算できます。
Q2:共分散が負の値になった場合、何を意味しますか?
A2:一方の変数が平均より大きいとき、もう一方は平均より小さくなる傾向があることを示します。ただし、負の値の絶対値が大きいほど必ず関係が強いとは限りません。関係の強さを比較する場合は、相関係数も確認してください。
Q3:共分散はnとn−1のどちらで割ればよいですか?
A3:対象となるデータ全体の共分散を記述する場合はnで割る方法が基本です。標本から母共分散を推定するための不偏共分散ではn−1を使います。「標本共分散」という用語は教材によって定義が異なる場合があるため、問題文や授業で指定された公式を優先しましょう。
共分散の求め方は、平均と偏差の意味を理解すれば、順番に計算するだけで身につけられます。基本公式は、各データの偏差の積を合計し、データ数で割るというものです。ただし、分母がnかn−1かによって、求めている統計量が異なります。
分散は1つの変数のばらつき、共分散は2つの変数の連動、相関係数は単位の違いを取り除いた直線的な関係の強さを表します。ExcelではCOVARIANCE.PとCOVARIANCE.Sを使い分けることで、目的に合った計算が可能です。
まずは少ないデータで平均・偏差・偏差の積を順番に計算し、答えが公式と一致するか確認してみましょう。計算の意味と分母の選び方を押さえておけば、統計学の基礎問題から共分散行列を使う応用的な分析まで、着実に理解を深められます。