2023年、日本各地でカメムシが大量に発生し、住宅の壁やベランダ、洗濯物などに大量に付着する現象が話題になりました。農業分野でも果樹カメムシ類の発生が問題となり、関東以西を中心に13都府県で注意報が発表されています。背景には、春から秋にかけての記録的な高温、スギ・ヒノキの球果(実)を利用した繁殖、越冬個体の密度など、複数の要因が関係しています。
ただし、2023年の大量発生を単純に「温暖化の影響」と説明するのは正確ではありません。農林水産省や気象庁、農研機構の資料を照らし合わせると、果樹を加害するカメムシと住宅に侵入するカメムシでは、発生の仕組みや行動にも違いがあります。2026年11月現在の最新公表資料とも比較しながら、2023年の発生経緯、地域別の状況、農作物への影響、家庭でできる対策を整理します。
【まず整理】2023年のカメムシ大量発生は何が起きていたのか?

2023年のカメムシ問題を理解するには、まず「カメムシ」という言葉が複数の種類をまとめた呼び名であることを知っておく必要があります。
一般にカメムシは、農作物を加害する害虫としての側面と、秋になると住宅に侵入して悪臭を発する不快害虫としての側面を持っています。
2023年に農業関係者が特に警戒したのは、果実を吸汁する果樹カメムシ類です。
主な種類は次の3種です。
- チャバネアオカメムシ
- ツヤアオカメムシ
- クサギカメムシ
これらは山林で生活し、スギやヒノキなどの球果を餌に繁殖します。その後、山林の餌が不足すると果樹園へ移動し、果実を吸汁する性質があります。
一方、住宅に侵入するカメムシには、クサギカメムシやマルカメムシ、地域によってはスコットカメムシなども含まれます。
したがって、農業分野で確認された大量発生と、住宅街で目撃されたカメムシの増加は、関連する部分があるものの、必ずしも同じ種類・同じ発生現象ではありません。
2023年に13都府県で注意報が発表された背景農研機構の植物防疫研究部門に所属する研究者が2024年2月に公表した解説によると、2023年は果樹カメムシ類の当年世代の発生が関東以西で多く、13都府県で注意報が発表されました。
暖地では、特にツヤアオカメムシの発生が目立ったとされています。
農林水産省の2023年10月11日付の病害虫発生予報でも、果樹カメムシ類について北東北、関東、東海、近畿、四国、九州の一部で発生が多くなると予想されていました。
同資料では、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県などから注意報が発表されていたことも確認できます。
ただし、注意報は農作物への被害がすでに広範囲で発生したという意味ではありません。重要な病害虫の発生が多くなると予測され、早めの防除が必要と判断された場合に発表されるものです。
実際、農研機構の専門家による2023年の発生状況の解説では、果樹に大きな被害は発生しなかったと説明されています。
つまり、2023年は発生量の増加に対して農業関係者の警戒が強まった年であり、注意報の件数だけで全国の農作物被害の大きさを判断することはできません。
【原因を検証】高温・スギやヒノキの実・越冬密度が重なった理由
2023年の大量発生を理解するうえで重要なのが、気温と餌環境、越冬という3つの要素です。
2023年は全国的に記録的な高温だった気象庁が2024年1月4日に発表した「2023年(令和5年)の日本の天候」によると、2023年は全国的に年平均気温が高く、特に北日本・東日本では1946年の統計開始以降、年平均気温が最も高い年となりました。
西日本も1位タイの高温でした。
春から秋にかけて高温傾向が続き、北日本と東日本では春・夏・秋の3季節連続で季節平均気温が過去最高となっています。
昆虫の活動や発育は気温の影響を受けます。気温が高い状態が続けば、活動期間や発育条件に影響し、害虫の発生に適した環境が生まれる可能性があります。
農研機構の専門家も、2023年は春以降、全国的に気温が高く、害虫の発生に好適な条件が続いたと説明しています。
ただし、高温だけでカメムシの個体数が決まるわけではありません。餌の量や越冬できた成虫の数、地域ごとの気象条件なども関係します。
スギ・ヒノキの球果が繁殖を支える果樹カメムシ類の発生を左右する重要な要素が、スギやヒノキの球果です。
球果とは、スギやヒノキなどの針葉樹にできる実のことです。
カメムシは山林で球果から栄養を得て繁殖します。餌が豊富であれば幼虫が成長しやすく、新しい成虫が増える条件が整います。
ここで重要なのは、球果が豊作なら必ず果樹園への飛来が増えるわけではないという点です。
球果が豊富な間は山林にとどまる個体が多くなります。しかし、球果の成熟が進み、餌としての質が低下したり、利用できる餌が不足したりすると、カメムシは別の餌場を探して移動します。
その移動先の一つが、ナシやモモ、カキ、ミカンなどの果樹園です。
つまり、山林で繁殖する段階と、餌を求めて果樹園に飛来する段階を分けて考えることが重要です。
越冬密度が翌年の発生を左右する果樹カメムシ類の多くは成虫の状態で冬を越します。
そのため、秋に多くの成虫が発生した地域では、翌春に活動を始める個体が増える可能性があります。
冬の気温も越冬に影響する要素です。寒さによる死亡が少なければ、春に残る成虫が増える可能性があります。
ただし、越冬密度は気温だけで決まるものではありません。前年の繁殖状況や餌環境、種類ごとの越冬場所なども影響します。
この仕組みを考えると、2023年の秋に多く発生した地域では、翌年の春以降も注意が必要だった理由が分かります。
また、2024年の大量発生については、2023年のスギ・ヒノキの実の豊作と暖冬による越冬が要因として指摘されました。これは2023年の発生そのものとは区別すべき、翌年への影響です。
【関係を一覧】チャバネアオ・ツヤアオ・クサギカメムシの違い
果樹カメムシ類として扱われる3種類には、それぞれ特徴があります。
| 種類 | 主な特徴・生態 | 農業・生活への影響 |
|---|---|---|
| チャバネアオカメムシ | 緑色の体に茶色の前翅を持つ。スギ・ヒノキの球果などを利用して繁殖する | ナシ、モモ、カキ、ミカンなどを吸汁する代表的な果樹害虫 |
| ツヤアオカメムシ | 光沢のある緑色が特徴。暖地で発生が目立つことがある | 果樹を加害し、特に西日本など温暖な地域で警戒される |
| クサギカメムシ | 茶色から暗褐色で、黄褐色の斑紋がある。多様な植物を利用する | 果樹への被害に加え、秋の住宅侵入や悪臭でも問題になる |
農林水産省は、この3種類を果樹類に被害を与える代表的な果樹カメムシ類として挙げています。
2023年は暖地でツヤアオカメムシが目立った2023年の発生状況について、農研機構の専門家は、暖地ではツヤアオカメムシの発生が多かったと説明しています。
同じカメムシでも、地域によって優占する種類が異なるため、全国一律の対策だけでは十分ではありません。
果樹園では、実際に飛来している種類を確認し、地域の病害虫防除所が発表する情報に従って対応する必要があります。
また、住宅に侵入するクサギカメムシと、果樹園で問題になるチャバネアオカメムシを、すべて同じ生態として扱うのも誤解につながります。
【地域と数字を比較】2023年の13都府県から2026年の発生動向へ
2023年以降、果樹カメムシ類の注意報発表状況は年によって大きく変化しています。
農林水産省が公表した資料から、主な動きを整理します。
| 年 | 発生・注意報の状況 | 注目点 |
|---|---|---|
| 2023年 | 13都府県で注意報 | 関東以西を中心に当年世代の発生が多かった |
| 2024年 | 61件・38都府県 | 広範囲で注意報・警報が発表された |
| 2025年 | 18件 | 前年と比較して発表回数が減少 |
| 2026年 | 50件・31府県(10月14日時点) | 秋まで広範囲で注意報・警報が発表された |
※発表件数と発表都府県数は異なる指標です。同じ都府県で複数回発表される場合があります。2026年は10月14日時点の途中経過です。
2023年の発生地域は関東以西が中心2023年の農研機構の解説では、関東以西で当年世代の発生が多かったとされています。
農林水産省の同年10月の発生予報では、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県などで果樹カメムシ類の注意報が確認できます。
暖地ではツヤアオカメムシの発生も目立ちました。
このことから、2023年の発生は特定の都市だけに限られた現象ではなく、広い地域で農業上の警戒が必要になったことが分かります。
2024年は61件・38都府県に拡大2024年は、果樹カメムシ類の注意報・警報の発表件数が61件、38都府県に達しました。
2023年の13件と比べても、大きな変化です。
農林水産省の資料では、2024年は春の早い時期から各地で注意報が発表され、5月には発生地域がさらに広がっていました。
この数字は、カメムシの発生が毎年同じ規模で続くわけではなく、前年の繁殖や越冬、球果の状況などによって大きく変動することを示しています。
2026年は10月時点で31府県に注意報・警報2026年の最新状況について、農林水産省が公表した10月14日時点の資料では、果樹カメムシ類の注意報・警報は50件、31府県となっています。
このうち静岡県では警報も発表されました。
加えて、10月15日時点の全国発生動向では、愛知県、三重県、滋賀県、和歌山県、岡山県などで発生動向が「多」と整理されています。
ここで注目したいのは、2023年の13都府県という数字だけを見て、現在は問題が収束したと判断できないことです。
2026年も地域によって発生状況に差があり、同じ都道府県内でも果樹園ごとに飛来数が異なる可能性があります。
また、50件という数字は警戒情報の発表件数であって、カメムシの実際の個体数や農作物の被害面積を示すものではありません。
【農作物への影響】発生時期とピークはいつ?果樹被害の実態
果樹カメムシ類による農作物被害は、主に果実から汁を吸うことによって発生します。
被害を受けやすい果樹には、次のようなものがあります。
- リンゴ
- ナシ
- モモ
- カキ
- ミカンなどのかんきつ類
- キウイフルーツ
- ブドウ
カメムシが果実に口針を刺して吸汁すると、果実の成長に影響が出ます。
幼果の段階で被害を受けた場合は、落果することがあります。
果実がある程度成長してから被害を受けた場合には、表面がへこんだり、内部の果肉が変質したりすることがあります。
外見上は収穫できそうに見えても、内部の品質が低下している場合があるため、農家にとっては出荷品質を左右する問題です。
カメムシの発生時期とピーク果樹カメムシ類の一般的な活動サイクルは次のとおりです。
4月~6月:越冬成虫が活動
冬を越した成虫が活動を始め、サクラやクワなどの植物から餌を得ます。果樹園へ飛来する場合もあります。
6月~7月:山林で繁殖
スギやヒノキの球果などに移動し、産卵や幼虫の成長が進みます。
8月~9月:新成虫の増加
新しい世代の成虫が増える時期です。チャバネアオカメムシでは、ヒノキ球果上の新成虫密度が8~9月に高くなることが知られています。
9月~11月:餌場の移動と越冬場所探し
山林の餌が不足すると果樹園へ移動する個体がいます。また、越冬場所を探して住宅に飛来する種類も増えます。
ただし、これは一般的な目安です。地域や種類、気温、球果の状態によって発生時期は前後します。
農家が特に注意したいのは、前年の発生量だけでなく、その年の予察灯やフェロモントラップによる誘殺数、実際の果樹園への飛来状況を確認することです。
【家に侵入する理由と駆除対策】秋の大量発生を防ぐ方法
秋になると、カメムシが住宅の外壁や窓、ベランダに集まることがあります。
農作物への被害とは異なる、越冬のための移動行動が関係しています。
なぜカメムシは家の中に入ってくるのか?カメムシは冬の寒さを避けるため、建物の隙間などを越冬場所として利用します。
特に10~11月頃は、住宅への侵入が目立ちやすい時期です。
日当たりのよい外壁や窓の周辺に飛来し、窓枠、換気口、サッシなどの隙間を探して入り込もうとします。
カメムシは体が平たいため、わずか2~3mm程度の隙間から侵入することもあります。
加えて、夜間の照明に誘引される性質もあり、明るい窓や玄関周辺に集まることがあります。
家庭でできる5つの侵入防止策1. 窓や網戸の隙間をふさぐ
隙間テープなどを利用して、窓枠やサッシの隙間をできるだけなくします。換気口や給排気口には適切な防虫網を設置します。
2. 夜間の屋外照明を見直す
不要な照明を消し、必要に応じて近紫外線を抑えた防虫用ランプを利用します。窓周辺の明るさを抑えることも有効です。
3. 洗濯物の取り込み時に確認する
カメムシは洗濯物に付着することがあります。特に秋は、取り込む前に衣類やタオルを確認しましょう。
4. 建物の外壁や窓周辺を予防する
市販のカメムシ用忌避剤や殺虫剤を、製品の使用説明に従って窓枠や侵入しやすい場所に使用します。
5. 住宅周辺の植物を管理する
カメムシが集まりやすい植物や雑草が住宅のすぐ近くにある場合は、適切に管理します。ただし、山林全体に生息する虫なので、庭の手入れだけで完全に発生を防げるわけではありません。
家の中で見つけたときの正しい駆除方法カメムシを見つけたときに、最も避けたいのが強くつぶすことです。
刺激を受けると臭いのある分泌物を出すため、壁や家具、衣類に臭いが残る場合があります。
おすすめの方法は次のとおりです。
- ガムテープなどを使い、つぶさないように捕獲する。
- 紙や容器を使って静かに外へ移動させる。
- 数が多い場合は、対象のカメムシに適した市販の殺虫剤を説明書どおりに使用する。
- 大量に侵入して手に負えない場合は、害虫駆除の専門業者に相談する。
むやみに手でつぶしたり、強く追い回したりするのは避けましょう。
【よくある質問】カメムシ大量発生2023に関するFAQ
Q1:2023年にカメムシが大量発生した最大の原因は何ですか?
A1:2023年の全国的な高温傾向に加え、スギ・ヒノキの球果を利用した繁殖や越冬密度など、複数の要因が関係しています。高温だけを唯一の原因とすることはできません。
Q2:2023年に注意報が出た13都府県はどこですか?
A2:農研機構の専門家による2024年の解説では、2023年に13都府県で注意報が発表されたとされています。関東以西で当年世代の発生が多く、農林水産省の同年10月の資料では神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県などの発表が確認できます。
Q3:カメムシの大量発生は2026年も続いていますか?
A3:はい。農林水産省の2026年10月14日時点の資料では、果樹カメムシ類の注意報・警報は50件、31府県で確認されています。地域によって発生状況が異なるため、最新の都道府県別予察情報を確認することが大切です。
2023年のカメムシ大量発生は、全国的な高温傾向と山林の餌環境、繁殖、越冬などが複雑に関係した現象でした。
果樹カメムシ類については関東以西で当年世代の発生が多く、13都府県で注意報が発表されました。一方、注意報が出たことと、実際に農作物の大きな被害が発生したことは同じではありません。
2026年も10月時点で31府県に注意報・警報が発表されており、カメムシ問題が特定の年だけの現象ではないことが分かります。
【プロの結論】
カメムシの発生を正しく判断するには、次の3つを確認が必要です。
1. 気象条件: 春から秋の高温傾向や冬の越冬環境を確認する。
2. 餌環境: スギ・ヒノキの球果の豊凶と、山林から果樹園への移動状況を把握する。
3. 地域別の予察: 農林水産省や都道府県の病害虫防除所が発表する注意報・警報、予察灯やトラップの調査結果を確認する。
家庭では秋の侵入時期に窓や換気口の隙間をふさぎ、洗濯物への付着にも注意することが有効です。
農業では、全国の発表件数だけで判断せず、自分の地域や果樹園での飛来状況を観察することが被害を抑える鍵になります。
2023年の大量発生から2026年の最新動向までを振り返ると、カメムシ対策は発生してから駆除するだけでなく、繁殖・越冬・餌場の変化を先読みすることが重要だと分かります。
主な参照資料: 気象庁、農林水産省、農研機構、自治体の害虫対策資料および2026年の全国発生動向。