眠っている人の呼吸が徐々に大きくなり、次第に弱まって、しばらく止まったように見える。そして再び呼吸が始まり、同じ変化を繰り返す。このような特徴的な呼吸パターンを「チェーンストークス呼吸」と呼びます。心不全や脳卒中などの病気と関連することがあり、睡眠中の異常な呼吸を見分けるうえで重要な医学的所見です。
ただし、チェーンストークス呼吸が見られたからといって、必ずしも心不全や脳卒中がある、あるいは死期が迫っているという意味ではありません。原因を調べるには、呼吸の特徴だけでなく、持病や服薬状況、睡眠ポリグラフ検査などを総合的に評価する必要があります。2026年時点の日本の診療指針と海外の最新ガイドラインを踏まえ、仕組み、症状、見分け方、診断基準、治療法を整理します。
【基礎知識】チェーンストークス呼吸とは?仕組みと症状を解説

チェーンストークス呼吸(Cheyne–Stokes respiration)は、呼吸の深さや換気量が周期的に増加・減少し、その間に中枢性無呼吸または中枢性低呼吸が現れる呼吸パターンです。「周期性呼吸」と呼ばれる異常呼吸の一種で、英語ではCSR、チェーンストークス呼吸パターンはCSBと略されることがあります。
呼吸が大きくなった後に止まるのはなぜ?呼吸は、血液中の二酸化炭素や酸素の変化を脳の呼吸調節機構が感知し、呼吸筋に指令を送ることで調整されています。通常、この仕組みは呼吸を安定させます。しかし、心臓のポンプ機能が低下するなどして血液循環や呼吸調節に遅れが生じると、呼吸が過剰になったり、逆に弱まったりすることがあります。
典型的なチェーンストークス呼吸では、次のような流れが起こります。
- 呼吸が徐々に強くなる:換気量が増加し、二酸化炭素が多く排出されます。
- 呼吸が徐々に弱くなる:血液中の二酸化炭素濃度が低下し、呼吸を促す刺激が弱まります。
- 中枢性無呼吸が起こる:二酸化炭素濃度が呼吸を維持するための閾値を下回ると、呼吸指令が一時的に停止します。
- 再び呼吸が始まる:二酸化炭素が蓄積するなどして呼吸刺激が戻り、呼吸が再開します。
この過程が繰り返されることで、呼吸が徐々に強くなり、次第に弱くなる「漸増・漸減」の波形が生まれます。典型例では、無呼吸の開始から次の無呼吸の開始までの周期は40秒以上、一般的には45~90秒程度です。ただし、実際の周期は病態や測定条件によって異なります。
チェーンストークス呼吸の主な症状本人が気づきにくい睡眠中の異常として現れることがあり、同居する家族や介護者が最初に気づくケースもあります。代表的な症状は以下のとおりです。
- 睡眠中に呼吸が止まったように見える
- 呼吸が徐々に大きくなり、弱くなる変化を繰り返す
- 夜間に息苦しさを感じて目が覚める
- 眠りが浅い、途中で何度も目が覚める
- 日中の眠気、疲労感、熟睡感の低下がある
- 心不全などの基礎疾患に伴い、息切れや活動能力の低下が見られる
これらの症状は、チェーンストークス呼吸に特有のものではありません。また、日中の眠気などが目立たない人もいます。症状だけで判断せず、呼吸のパターンと背景疾患を併せて評価することが大切です。
【原因を解説】心不全・脳卒中とどう関係する?
チェーンストークス呼吸の原因として特に重要なのが、心不全と神経疾患です。呼吸の調節機構そのものに異常がある場合だけでなく、血液循環の変化や薬剤の影響によって呼吸が不安定になる場合もあります。
心不全:血液循環の遅れが呼吸を不安定にする心不全では、心臓が全身へ血液を送り出す機能が低下することがあります。循環に時間がかかると、血液中の二酸化炭素や酸素の変化が呼吸調節中枢に伝わるまでに遅れが生じ、呼吸の調整が過剰に反応しやすくなります。
心不全に伴う肺うっ血や、呼吸を調節する仕組みの過敏性なども関係します。その結果、過換気と中枢性無呼吸が交互に起こり、周期性の呼吸パターンが形成されることがあります。
重要なのは、チェーンストークス呼吸が心不全の存在や状態悪化を知らせる手がかりになり得る点です。特に、横になると息苦しい、足がむくむ、短期間で体重が増える、以前より動くと息切れするなどの症状が併存する場合は、循環器内科での評価が必要です。
脳卒中・神経疾患:呼吸を制御する機能への影響脳卒中やその他の神経疾患も原因になり得ます。脳幹を含む神経系の障害は呼吸のリズムや調節に影響し、病変の部位や病態によって異常呼吸が現れることがあります。ただし、すべての脳卒中患者にチェーンストークス呼吸が生じるわけではありません。
また、心房細動などの不整脈、腎機能障害、標高の高い場所での低酸素環境、オピオイドなどの薬剤も、中枢性睡眠時無呼吸や呼吸の不安定化に関係する場合があります。原因が複数重なっているケースもあるため、呼吸パターンだけで特定の病気を決めつけることはできません。
チェーンストークス呼吸は「死期が近い」という意味なのか終末期の患者では、全身状態の変化に伴ってチェーンストークス呼吸が見られることがあります。そのため、終末期の呼吸変化として知られていますが、チェーンストークス呼吸があることだけで、死期が近いと判断することはできません。
心不全や神経疾患、睡眠関連の呼吸障害など、さまざまな状況で生じるためです。予後を考える際には、原因疾患の重症度、心機能、神経学的状態、酸素化、治療への反応などを総合的に評価する必要があります。
【見分け方】ビオー呼吸・クスマウル呼吸との違いを比較
異常呼吸を見分ける際には、呼吸が大きくなったり小さくなったりする周期性があるか、呼吸停止が規則的か不規則か、呼吸筋の動きが残っているかが重要です。ただし、見た目だけで確定診断することはできません。
| 呼吸パターン | 呼吸の特徴 | 主な関連病態 | 見分けるポイント |
|---|---|---|---|
| チェーンストークス呼吸 | 呼吸が徐々に強くなり、弱くなった後に無呼吸を繰り返す | 心不全、脳卒中などの神経疾患、中枢性睡眠時無呼吸 | 呼吸の深さが周期的に増減する |
| ビオー呼吸(失調性呼吸) | 不規則な呼吸のまとまりと、予測しにくい無呼吸が交互に現れる | 脳幹障害、髄膜炎、頭蓋内圧亢進など | 漸増・漸減の規則的な周期が乏しい |
| クスマウル呼吸 | 深く大きな呼吸が持続する | 糖尿病性ケトアシドーシス、腎不全などに伴う代謝性アシドーシス | 典型的には無呼吸を挟最初に、深い呼吸が続く |
| 閉塞性睡眠時無呼吸 | 睡眠中に気流が止まる、または大きく低下する | 上気道の狭窄や閉塞など | 気流が止まっても、胸や腹部の呼吸努力が続くことが多い |
この比較は、代表的な特徴を整理したものです。実際の患者では複数の呼吸パターンが混在したり、典型例と異なる現れ方をしたりすることがあります。
特に重要なのは「呼吸努力があるかどうか」チェーンストークス呼吸に伴う中枢性無呼吸では、気流が止まるだけでなく、呼吸筋への指令が一時的に途絶え、胸部や腹部の呼吸努力も認められなくなります。一方、閉塞性睡眠時無呼吸では、上気道が塞がれて気流が止まっても、呼吸しようとする胸部・腹部の動きが残ることが一般的です。
この違いは治療方針にも関わります。一般的な閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸は、同じ「無呼吸」でも発生する仕組みが異なります。家族が観察した呼吸の様子は受診時の参考になりますが、正確な判別には専門的な検査が必要です。
【診断基準】睡眠ポリグラフ検査で何を調べる?
チェーンストークス呼吸が疑われる場合は、呼吸器内科、睡眠医療を専門とする医療機関、循環器内科、神経内科などで、症状や背景疾患に応じた検査を行います。日本呼吸器学会の「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」や、日本循環器学会などによる2023年改訂版の睡眠呼吸障害に関するガイドラインでは、呼吸パターンの評価と基礎疾患の確認が重要なテーマとして扱われています。
睡眠ポリグラフ検査(PSG)とは睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography:PSG)は、睡眠中の呼吸や睡眠状態を詳しく調べる検査です。医療機関で行う検査では、主に次の項目を記録します。
- 鼻や口を通る空気の流れ
- 胸部・腹部の呼吸運動
- 血中酸素飽和度(SpO₂)
- 心電図や心拍数
- 脳波、眼球運動、筋電図などの睡眠に関する指標
これらを組み合わせることで、呼吸が止まったときに呼吸努力があったか、酸素飽和度がどのように変化したか、無呼吸がどの程度の頻度で起きているかを確認できます。
チェーンストークス呼吸の診断基準米国睡眠医学会(AASM)の呼吸イベント判定基準では、チェーンストークス呼吸パターンを評価する際、漸増・漸減する呼吸振幅と中枢性の呼吸イベントが繰り返されることが重視されます。成人における代表的な判定要素は次のとおりです。
- 中枢性無呼吸または中枢性低呼吸が少なくとも3回連続して現れること。
- 呼吸の振幅が漸増・漸減し、周期の長さが40秒以上であること。典型的には45~90秒程度です。
- 該当する呼吸パターンに関連した中枢性無呼吸・低呼吸が、1時間あたり5回以上認められること。呼吸イベントの判定ルールでは、少なくとも2時間のモニタリングが用いられます。
ただし、呼吸パターンの判定と「チェーンストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸症候群」という臨床診断は同一ではありません。症状や心不全・神経疾患などの背景、睡眠中の中枢性イベントの頻度と割合、薬剤の影響なども評価します。一般的な診断基準では、中枢性無呼吸・低呼吸が睡眠1時間あたり5回以上あり、無呼吸・低呼吸全体の50%を超えることなどが判断材料になります。
心臓や脳の検査も必要になるPSGで特徴的な呼吸パターンが見つかった場合でも、検査はそこで終わりません。心不全が疑われる場合は心エコー検査や心電図、血液検査などで心機能を評価します。脳卒中やその他の神経疾患が疑われる場合には、神経学的診察や画像検査などが検討されます。
家庭用の簡易検査は、患者の状態や装置の機能によっては中枢性と閉塞性の呼吸イベントを十分に区別できないことがあります。診断が難しい場合や、睡眠の状態を詳しく調べる必要がある場合は、医師がPSGの必要性を判断します。
【2026年最新】チェーンストークス呼吸の治療とCPAP療法・ASV療法
治療の基本は、チェーンストークス呼吸そのものだけに注目するのではなく、背景にある病気を適切に治療することです。治療法は心機能、神経疾患の状態、睡眠検査の結果、症状、患者本人が期待する改善などを踏まえて決定されます。
1. 原因疾患を治療する心不全が原因であれば、心不全に対する薬物療法やデバイス治療などを適切に行い、循環動態を改善することが基本です。脳卒中などの神経疾患が関係している場合は、その病態に応じた治療と回復支援を進めます。薬剤が影響していると考えられる場合には、服用量や代替薬の可能性を医師と検討します。
基礎疾患の改善によって、チェーンストークス呼吸が軽減する場合があります。反対に、呼吸パターンが続く場合には、睡眠中の呼吸障害そのものへの追加治療を検討します。
2. CPAP療法:持続的に陽圧を加えるCPAP療法(持続陽圧呼吸療法)は、マスクを通じて持続的に陽圧を加える治療です。主に閉塞性睡眠時無呼吸で広く使われますが、中枢性睡眠時無呼吸に対しても、患者の状態に応じて選択肢になります。
チェーンストークス呼吸に伴う中枢性睡眠時無呼吸では、CPAPによって呼吸の安定化や酸素化の改善が得られる場合があります。ただし、すべての患者に同じ効果が得られるわけではなく、呼吸イベントの改善がそのまま長期的な生存率の改善を意味するわけでもありません。
3. ASV療法:呼吸の変動に応じて圧力を調整するASV療法(適応補助換気療法)は、患者の呼吸状態を検知し、換気量の変化に合わせて圧力補助を調整する装置を用いる治療です。呼吸が不安定になるタイプの中枢性睡眠時無呼吸で、呼吸の変動を抑える目的で検討されます。
ただし、ASV療法は誰にでも適しているわけではありません。特に、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と中枢性睡眠時無呼吸を併せ持つ患者では、機器の種類や病態、適応条件を慎重に検討する必要があります。
2025~2026年のガイドラインで押さえたい点2025年12月に公表された米国睡眠医学会(AASM)の中枢性睡眠時無呼吸に関する診療ガイドラインでは、CPAPやASVなどについて、患者の状態に応じた条件付きの使用推奨が示されました。ASVについては、症状や生活の質の改善を期待できるかを患者と医療者が共有して判断し、左室駆出率が低下した心不全患者では、経験のある専門施設で慎重に管理するよう求めています。
一方、2026年の欧州心臓病学会(ESC)の心不全ガイドラインでは、左室駆出率が低下した心不全患者で中枢性睡眠時無呼吸が優位な場合、ASVは心血管死亡や全死亡のリスクに関する懸念から推奨されていません。こうした推奨の違いは、対象患者、機器のアルゴリズム、研究結果の評価などを踏まえて理解する必要があります。
つまり、2026年時点で「ASVは心不全に一律に有効」「心不全ならASVはすべて禁止」と単純化するのは適切ではありません。特に左室駆出率が低下している場合は、循環器専門医と睡眠医療の専門家が、機器の適応やリスク、期待できる症状改善を慎重に検討する必要があります。自己判断で装置を購入・使用することは避けてください。
4. その他の治療選択肢病態によっては、低流量酸素療法、呼吸回数のバックアップ機能を備えた二相性陽圧換気療法、アセタゾラミドなどの薬物療法、経静脈的横隔神経刺激療法が検討される場合もあります。ただし、適応やエビデンスの確実性は治療ごとに異なります。
AASMの2025年ガイドラインでは、心不全に伴う中枢性睡眠時無呼吸に対する低流量酸素療法やアセタゾラミドなども条件付きで推奨されています。一方、これらの治療も一律に適用するものではなく、患者の状態や副作用、利用可能性を踏まえて判断します。特に、バックアップ機能のない二相性陽圧換気療法については、同ガイドラインは使用を推奨しない立場を示しています。
【プロの結論】予後と危険性、受診すべきタイミング
チェーンストークス呼吸で最も重要なのは、呼吸パターンだけを見て病気の重症度や余命を決めつけないことです。一方で、心不全や神経疾患のサインである可能性があるため、繰り返し見られる場合は放置せず、原因を調べる必要があります。
予後は何によって変わるのか予後を左右するのは、基礎疾患の種類と重症度、呼吸障害の程度、酸素化、治療への反応などです。心不全患者ではチェーンストークス呼吸が重い病態と関連する場合がありますが、呼吸パターンだけから個人の予後を正確に予測することはできません。
また、睡眠中の呼吸イベントの数値だけを下げることが、必ずしも治療の最終目標ではありません。AASMの2025年ガイドラインも、呼吸イベントの改善だけでなく、症状、生活の質、併存疾患の管理を含めた個別の治療計画を重視しています。
こんな症状があれば早めに医療機関へ- 睡眠中に呼吸が止まるような状態を繰り返し指摘される
- 夜間の息苦しさや日中の強い眠気、倦怠感が続く
- 心不全の既往があり、息切れやむくみ、急な体重増加が悪化している
- 脳卒中や神経疾患の治療中に呼吸パターンの変化が見られる
呼吸の異常が繰り返される場合は、かかりつけ医に相談し、必要に応じて循環器内科、呼吸器内科、睡眠外来などを受診してください。安全に可能であれば、呼吸の様子を短い動画に記録して医師に見せることも参考になりますが、記録のために受診を遅らせてはいけません。
突然の片側の手足の麻痺、顔のゆがみ、言葉が出にくい・ろれつが回らない、意識の変化、強い呼吸困難、胸痛などがある場合は、救急要請を含めた緊急対応が必要です。睡眠外来の予約を待つのではなく、直ちに救急医療につなげてください。
【チェーンストークス呼吸】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:チェーンストークス呼吸があれば、必ず心不全なのでしょうか?
A1:いいえ。心不全は重要な原因ですが、脳卒中などの神経疾患、薬剤、高地環境などが関係する場合もあります。呼吸の見た目だけでは診断できないため、必要に応じて睡眠検査や心機能、神経学的な評価を受けることが大切です。
Q2:チェーンストークス呼吸は死期が近いサインですか?
A2:必ずしもそうではありません。終末期に見られることはありますが、心不全や中枢性睡眠時無呼吸など、ほかの状況でも起こります。予後は基礎疾患や全身状態によって異なるため、この呼吸パターンだけで余命を判断することはできません。
Q3:チェーンストークス呼吸にはCPAP療法とASV療法のどちらが適していますか?
A3:一律の正解はありません。CPAPやASVの適応は、睡眠ポリグラフ検査の結果、心機能、併存疾患、症状などによって異なります。特に左室駆出率が低下した心不全ではASVの適応に慎重な判断が必要です。自己判断ではなく、循環器内科や睡眠医療の専門医に相談してください。
チェーンストークス呼吸は、呼吸が徐々に強くなり、弱くなった後に無呼吸を繰り返す周期性呼吸です。心不全や脳卒中などの神経疾患、中枢性睡眠時無呼吸との関係が深く、呼吸の調節機構や血液循環の変化が発生に関わります。
ビオー呼吸のような不規則な呼吸や、クスマウル呼吸のような持続的に深い呼吸との違いを知ることは、異常に気づく第一歩です。ただし、確定診断には睡眠ポリグラフ検査などによる客観的な評価が必要です。
治療では原因疾患の管理を優先し、必要に応じてCPAP療法、ASV療法、酸素療法などを検討します。2026年時点でも、特に心不全患者へのASV療法はガイドラインや患者の状態を踏まえた慎重な判断が欠かせません。
家族や介護者が呼吸の異常に気づいた場合は、呼吸パターンだけで深刻な病気や余命を決めつけず、症状と持病を確認しながら医療機関に相談することが大切です。異常呼吸を早期に捉え、背景にある病気を適切に評価することが、安全な治療選択につながります。