スタジオジブリの映画『紅の豚』に登場する真紅の飛行艇。主人公ポルコ・ロッソが操縦する愛機の名前は「サボイアS.21」ですが、実際にイタリアで製造された飛行機なのでしょうか。
答えは少し意外です。実は、1921年に「SIAI S.21」という実在の飛行艇が存在しました。しかし、映画に登場する赤い機体は実機そのものではありません。外観のモデルになったのは、1925年のシュナイダー・トロフィーに出場したイタリア製の「マッキM.33」です。加えて、宿敵ドナルド・カーチスの愛機にも実在するレーシング機「カーチスR3C-2」というモデルがあります。
2026年現在も航空ファンやジブリファンの間で関心を集めるこのテーマ。実在した航空機の記録、スタジオジブリ美術館の公式記事、航空史資料、ファインモールドの公式模型設定を照らし合わせながら、映画の機体と実在機の関係を整理します。
【まず結論】『紅の豚』の飛行機の名前はサボイアS.21!実在するのか?

ポルコ・ロッソが操縦する赤い飛行艇の正式な作中名称は、サボイアS.21試作戦闘飛行艇です。
イタリア語風の名称と独特の機体デザインから、実際に存在した航空機だと思われがちですが、映画のサボイアS.21は宮崎駿監督がデザインした架空の機体です。
ただし、名称の由来まで架空というわけではありません。
イタリアには、1921年にSIAI社が製作した実在の「SIAI S.21」という競技用飛行艇がありました。つまり、映画の機体は実在機の名称を採用しながら、外観には別の航空機の特徴を取り入れたデザインなのです。
ポルコ・ロッソの愛機はどんな飛行機?映画の前半でポルコが操縦するサボイアS.21は、赤い機体が印象的な単葉式の水上戦闘飛行艇です。
第一次世界大戦後のアドリア海を舞台に、賞金稼ぎとして活動するポルコの象徴的な存在でもあります。
特徴は、一般的な複葉機とは異なる洗練された機体形状と、胴体上部に配置されたエンジンです。水面から離着水するための艇体を備え、陸上の滑走路を必要としない設計になっています。
劇中ではカーチスとの戦闘で撃墜された後、フィオの協力によって大規模な修理と改修が行われます。その結果、映画後半ではエンジンや主翼が変更された新しい姿で復活します。
この前半型と後半型の違いは、単なる色や装飾の変更ではありません。機体の構造そのものが描き分けられています。
【実在機との違い】本物のSIAI S.21と映画のサボイアS.21を比較
サボイアS.21の実在性を考えるうえで、最も重要なのが1921年製のSIAI S.21との違いです。
実際のSIAI S.21は、イタリアの航空機メーカーSIAIが1921年のシュナイダー・トロフィーに向けて開発した競技用飛行艇でした。
しかし、その外観は映画のサボイアとは大きく異なります。
実在したSIAI S.21は複葉機だった米スミソニアン協会の航空専門誌『Air & Space Magazine』によると、実在したS.21は複葉機であり、シュナイダー・トロフィーのレースにも実際には出場していません。
一方、映画のサボイアS.21は、単葉機を思わせる流麗なシルエットをしています。
この違いは非常に大きく、名前が同じだからといって、映画の機体が実在するSIAI S.21を忠実に再現したものではないことがわかります。
三鷹の森ジブリ美術館の公式ショップ記事でも、航空機模型専門店ウイング・クラブのオーナー矢野雅幸氏が、実際のS.21は二枚翼で、宮崎監督が描いた機体はデザイン的に洗練されていたと振り返っています。
映画のサボイアに近いのはマッキM.33映画のサボイアS.21の外観に近い実在機として知られているのが、イタリアのマッキM.33です。
マッキM.33は1925年のシュナイダー・トロフィーに出場した競技用飛行艇で、単葉式の翼と胴体上部のエンジン配置など、映画のサボイアを連想させる特徴を持っています。
スミソニアンの『Air & Space Magazine』は、宮崎監督が幼少期の記憶に残っていたマッキM.33をもとに、映画のサボイアをデザインした経緯を紹介しています。
つまり、名称は実在したSIAI S.21、外観の主なモデルはマッキM.33という、複数の航空史上の要素を組み合わせた機体なのです。
【モデル機の真相】マッキM.33とカーチスR3C-2は実在した?
『紅の豚』の飛行機を理解するには、ポルコの愛機だけでなく、ライバル機のモデルにも注目する必要があります。
特に重要なのが、マッキM.33とカーチスR3C-2です。この2機は1925年のシュナイダー・トロフィーで実際に競い合った航空機でした。
マッキM.33は1925年のシュナイダー・トロフィー出場機マッキM.33は、イタリアの航空機設計者マリオ・カストルディが設計した単座の競技用飛行艇です。
イタリア空軍の公式航空史資料によると、1925年の大会に向けて2機が製造され、そのうちジョバンニ・デ・ブリガンティが操縦した1機がレースを完走しました。
結果は平均速度271km/hで3位。優勝こそ逃しましたが、当時の水上機開発における重要な機体でした。
映画のサボイアと見比べると、単葉式の翼、上部に配置されたエンジン、流線型の胴体などに共通点を見つけられます。
カーチスR3C-0のモデルは実在したR3C-2ポルコの宿敵ドナルド・カーチスが操縦する青い水上戦闘機は、カーチスR3C-0非公然水上戦闘機です。
この機体のモデルになったのは、アメリカのカーチス社が製造した実在のレーシング機「Curtiss R3C-2」です。
ここで注意したいのが、R3C-0とR3C-2は同じ名称ではないという点です。R3C-0は映画と関連模型で使用される設定上の名称で、実在する航空機の記録ではR3C-1が陸上機型、R3C-2が水上機型として区別されています。
スミソニアン国立航空宇宙博物館の所蔵資料によると、R3C-2は1925年10月26日のシュナイダー・トロフィーで、アメリカ陸軍のジミー・ドーリットル中尉が操縦し、平均速度約374km/hで優勝しました。
映画でカーチスがポルコと互角以上に渡り合う強力なパイロットとして描かれている背景には、こうした実際の航空レースの歴史があります。
【紅の豚の登場機体一覧】サボイアS.21F・カーチス・マッキM.39の関係
映画に登場する主要な水上機・飛行艇を整理すると、実在機と架空の機体の関係が見えてきます。
特に押さえておきたいのは、ポルコのサボイアが前半と後半で異なること、そしてフェラーリンの機体にも実在するイタリア製レーシング機のモデルがあることです。
| 登場人物・機体 | 作中の機体名 | 実在するモデル・関係 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ポルコ・前半 | サボイアS.21試作戦闘飛行艇 | マッキM.33が外観の主なモデル | 赤い単葉式の飛行艇 |
| ポルコ・後半 | サボイアS.21F「後期型」 | 映画独自の改修機 | エンジン・主翼を刷新し、フィオの座席を追加 |
| ドナルド・カーチス | カーチスR3C-0非公然水上戦闘機 | カーチスR3C-2 | 紺色の複葉水上機 |
| フェラーリン | イタリア製の水上機 | マッキM.39がモデル | 1926年のシュナイダー・トロフィー優勝機に連なる機体 |
映画後半のサボイアは、前半にカーチスによって撃墜された機体をフィオの工場で修理・改修したものです。
模型メーカーのファインモールドは、公式製品でこの機体を「サボイアS.21F 後期型」と呼んでいます。
公式製品説明によると、改修の要点は次の3つです。
- エンジンナセルの変更:新しいエンジンに合わせてエンジン周辺の形状を刷新。
- 主翼の変更:前半型とは異なる形状の主翼を採用。
- フィオの特設コクピット:フィオが同乗できるように座席を設けた。
単に壊れた飛行機を元どおりに修理したのではなく、性能や搭乗人数まで考慮した再設計として描かれています。
なお、S.21Fは実在したSIAI S.21の歴史的な改良型ではありません。映画後半の機体を区別するための呼称として理解するのが適切です。
【航空史を検証】シュナイダー・トロフィーとマッキM.39の重要な関係
『紅の豚』の航空機描写をさらに深く理解するために欠かせないのが、シュナイダー・トロフィーです。
この大会は、フランスの航空愛好家ジャック・シュナイダーが1912年に創設した水上機の国際速度競技会です。第1回大会は1913年にモナコで開催され、1931年まで続きました。
当時の航空機メーカーは、各国の威信をかけて高性能な水上機を開発していました。イタリアのマッキ社やアメリカのカーチス社も、その競争に参加していたのです。
1925年はカーチスR3C-2が優勝、マッキM.33は3位1925年の大会では、アメリカのカーチスR3C-2が優勝しました。
対するイタリアのマッキM.33は3位。映画でポルコとカーチスが対立する構図を考えると、実際の航空レースにおけるアメリカとイタリアの競争が興味深い背景になっています。
1926年にはマッキM.39が優勝さらに翌1926年には、イタリアのマッキM.39がシュナイダー・トロフィーを制しました。
イタリア空軍の公式資料によると、1926年11月13日にノーフォークで開催された第9回大会で、マリオ・デ・ベルナルディ少佐が操縦するM.39が平均速度396km/hを記録して優勝しています。
M.39は低翼単葉のフロート式水上機で、映画のポルコの愛機とは異なる設計です。
映画ではポルコの戦友フェラーリンの乗機のモデルとしても紹介されており、マッキM.33だけでなく、M.39まで知っておくと登場機体の背景をより深く理解できます。
なお、1925年のR3C-2、1925年のM.33、1926年のM.39は、それぞれ異なる実在機です。映画の設定と実際のレース結果を混同しないことがポイントです。
【プロの結論】『紅の豚』の飛行機モデルの真相とよくある誤解
ここまでの航空史を整理すると、『紅の豚』の飛行機は実在機をそのまま映画に登場させたものではなく、実在機の特徴を再構成したオリジナルデザインだとわかります。
誤解1:サボイアS.21は完全な架空の名前?これは正確ではありません。SIAI S.21という実在機が存在したため、名称には現実の航空史とのつながりがあります。
ただし、映画の機体と実機は別物です。名前の一致だけで同一機体と判断するのは間違いです。
誤解2:映画のサボイアはマッキM.33そのもの?これも正確ではありません。マッキM.33は外観の主なモデルですが、映画のサボイアは宮崎監督による独自のデザインです。
三鷹の森ジブリ美術館の公式記事に掲載された矢野雅幸氏のインタビューでは、映画のサボイアを立体化する際、実際に飛行できるかどうかよりも映画のデザインを生かすことを重視したと説明されています。
この証言は、サボイアが単純な実機の複製ではなく、アニメーションの世界観を優先して設計された機体であることをよく表しています。
誤解3:水上機と飛行艇は同じ意味?日常的には同じように使われることがありますが、航空機の分類では違いがあります。
- 水上機:水面から離着水する航空機の総称。フロート式や飛行艇などを含む。
- 飛行艇:胴体そのものが船のような形状をしており、艇体で水面に浮かぶ航空機。
- フロート式水上機:胴体とは別に取り付けられた浮舟によって水面に浮かぶ航空機。
マッキM.39やカーチスR3C-2はフロートを備えた水上機です。一方、サボイアS.21のような機体は飛行艇として描かれています。
この違いを理解すると、映画の機体を実在する航空機の写真と比較するときにも、より正確に特徴を見分けられます。
実在機を調べるなら何を基準にすべき?『紅の豚』のモデル機を調べる際には、次の3点を確認すると情報を整理しやすくなります。
- 機体名:映画内の呼称と実在機の正式名称を区別する。
- 構造:複葉・単葉、エンジン位置、フロートの有無などを比較する。
- 航空史:シュナイダー・トロフィーなどの実際の大会記録と照合する。
特に模型のパッケージや解説書は、映画の設定を理解する資料として便利です。ファインモールドはスタジオジブリとの企画によるサボイアS.21、サボイアS.21F、カーチスR3C-0の模型を展開しており、映画の機体設定を確認する手掛かりになります。
『紅の豚』の飛行機に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『紅の豚』のサボイアS.21は実在する飛行機ですか?
A1:同じ名称のSIAI S.21は1921年に実在しました。ただし、映画の赤いサボイアは架空の機体で、外観の主なモデルはマッキM.33です。
Q2:ポルコの愛機サボイアS.21のモデルはマッキM.33ですか?
A2:はい。外観の主なモデルとして知られています。マッキM.33は1925年のシュナイダー・トロフィーに出場し、平均速度271km/hで3位になった実在の競技用飛行艇です。
Q3:カーチスR3C-0とサボイアS.21Fも実在するのですか?
A3:どちらも映画の設定に基づく機体名です。カーチスR3C-0のモデルは実在したカーチスR3C-2で、サボイアS.21Fは映画後半に登場するサボイアの改修型です。実在機の歴史的な正式型式と混同しないようにしましょう。
『紅の豚』に登場する飛行機は、実在する航空機の歴史と宮崎駿監督の独創的なデザインが融合した存在です。
ポルコ・ロッソの愛機サボイアS.21は、実在したSIAI S.21と同じ名前を持ちながら、外観の主なモデルはマッキM.33。後半のサボイアS.21Fは、エンジンや主翼を改修した映画独自の機体です。
一方、ドナルド・カーチスのカーチスR3C-0は、1925年のシュナイダー・トロフィーで優勝したカーチスR3C-2がモデル。さらにフェラーリンの機体には、翌1926年の優勝機マッキM.39とのつながりがあります。
こうして航空史と照らし合わせると、映画の飛行機は単なる架空の乗り物ではないことがわかります。1920年代の水上機レース、イタリアとアメリカの技術競争、そして飛行艇に魅せられた宮崎監督の航空機への愛情が、一つの作品に凝縮されているのです。
次に『紅の豚』を観るときは、サボイアの翼の形やカーチスの機体、フェラーリンの乗機にも注目してみてください。実在した航空機の歴史を知ることで、アドリア海を舞台にした空の物語が、さらに奥深く感じられるはずです。