2026年7月21日、松本洋平文部科学大臣の記者会見で、2025年度の水泳授業の実施状況が取り上げられました。
文部科学省が教育委員会などと連携して情報を収集・整理した結果、次のような状況が明らかになっています。
| 調査対象 | 2025年度の実施状況 |
|---|---|
| 小学校 | 約99%が実技を実施 |
| 中学校 | 22.8%で実技を未実施 |
| 中学校の未実施割合 | 約5校に1校 |
注目したいのは、小学校と中学校で実施状況に大きな差があることです。
小学校ではほとんどの学校が水泳の実技を継続している一方、中学校では学校プールの廃止や施設環境の問題などによって、実技を行わない学校が一定数存在しています。
ただし、22.8%という数字を「中学校のプールが22.8%廃止された」と解釈するのは正しくありません。
この数字が示しているのは、2025年度に水泳の実技授業を実施できなかった学校の割合です。施設そのものを廃止した学校だけでなく、施設の問題や暑さなどで実技を見送った学校も含まれます。
水泳授業を実施するうえで何が問題になっている?2026年7月の報道で紹介された調査では、中学校の水泳授業を取り巻く施設・環境面の課題として、次の項目が挙がっています。
- 暑さへの対応:61.1%
- プールの老朽化対策:約50%
- 水質管理などの業務:約50%
- 学校外のプールへの移動時間・手段の確保:20%余り
特に目立つのが、暑さへの対応です。
ここで注意したいのは、これらの数字は施設・環境面の課題に関する回答であり、22.8%の未実施校だけを対象とした廃止理由の内訳ではないという点です。
それでも、学校が水泳授業を継続するうえで、気候と施設管理の両方が大きな負担になっていることが読み取れます。
【廃止理由を解説】学校プールの老朽化と教員の負担が深刻化

中学校の水泳授業が実施されなくなる背景には、単純に泳ぐ機会が必要なくなったという事情ではなく、学校施設の維持そのものが難しくなっているという構造的な問題があります。
1.学校プールの老朽化と修繕費の増大学校プールは、長期間使用する設備です。
しかし、プール本体だけでなく、ろ過装置、給排水設備、配管、シャワー設備なども経年劣化します。
安全に使用し続けるには、定期的な点検や修繕が欠かせません。
特に問題なのが、複数の学校で改修時期が重なることです。
自治体には校舎や体育館、空調設備など、ほかにも優先して整備すべき施設があります。限られた予算のなかで、使用期間が限られる屋外プールに多額の更新費用を投入するかどうかは、簡単に決められません。
文部科学省も2026年2月に公表した参考資料で、学校プールの老朽化と、それに伴う維持管理コストの増加を課題として挙げています。
2.水質管理や清掃など、教員の業務負担学校プールは、水を入れれば授業ができるという設備ではありません。
安全な水質を維持するためには、次のような管理業務が必要です。
- プール開設前の設備点検
- 水質や残留塩素の確認
- ろ過装置などの管理
- 清掃や水の入れ替え
- 使用前後の安全確認
- 事故や設備故障への対応
こうした業務を学校の教職員が担う場合、体育の授業そのもの以外にも時間と労力が必要になります。
水泳授業の実施期間は限られているため、授業が始まる前の準備や終了後の管理も集中しやすいという問題があります。
スポーツ庁の2026年2月の参考資料でも、教職員の管理上・指導上の負担を軽減することが、持続可能な水泳授業の実現に向けた重要な課題として整理されています。
3.水泳指導を担当できる教員の確保水泳は、一般的な陸上運動とは異なる専門性が必要な種目です。
泳力に差がある生徒を同時に指導するには、技能に応じたグループ分けや安全確認、事故発生時の対応などを考えなければなりません。
特に中学生は、泳げる生徒とほとんど泳げない生徒の差が大きい場合があります。
指導経験の少ない教員が安全管理まで一手に引き受ける状況は、学校にとっても負担です。
文部科学大臣も2026年7月の会見で、教員の指導力向上を水泳授業の課題の一つとして挙げています。
4.校外施設を利用するにも移動の問題がある学校プールを廃止すれば、近隣の公共施設やスイミングスクールを利用できるという考え方もあります。
しかし、学校から施設まで距離がある場合、バスや徒歩での移動が必要です。
移動時間が長くなれば、実際に泳ぐ時間が減る可能性があります。
また、バスの手配、施設の利用予約、授業時間の調整など、新たな業務も発生します。
つまり、学校プールを廃止すれば問題がすべて解決するわけではありません。
重要なのは、施設を維持する費用と、外部施設を利用する費用・移動負担を比較することです。
【猛暑と熱中症対策】夏なのに水泳授業が中止になるのはなぜ?
「暑い日ならプールに入れば涼しいのでは?」
そう考える人もいる可能性があります。
しかし、学校の水泳授業では、気温だけでなく湿度や日差し、水温、プールサイドの環境、生徒の体調なども考慮する必要があります。
プールに入っていても熱中症の危険はある水中にいるからといって、熱中症の危険がなくなるわけではありません。
特に屋外プールでは、次のような問題があります。
- 強い日差しを長時間浴びる
- 高温になったプールサイドで待機する
- 湿度が高く、体温調節が難しくなる
- 水温が上がり、十分に体を冷やせない
- 見学する生徒が日陰の少ない場所で過ごす
水泳授業では泳いでいる生徒だけでなく、見学している生徒の健康管理も必要です。
そのため、気温が高い日は授業そのものを中止する判断が必要になる場合があります。
WBGT(暑さ指数)による判断も重要熱中症の危険性を判断する際に使われる指標が、WBGT(暑さ指数)です。
これは気温だけでなく、湿度や輻射熱なども考慮した指標です。
環境省の運動に関する指針では、次のような目安が示されています。
| WBGT | 運動に関する指針 |
|---|---|
| 31以上 | 原則として運動中止 |
| 28以上31未満 | 厳重警戒。激しい運動は中止 |
| 25以上28未満 | 警戒。積極的に休憩 |
| 21以上25未満 | 注意。水分補給などに留意 |
2026年3月の文部科学省の検討資料でも、WBGTに基づく運動実施の判断や、指導計画・実施場所・実施時期の工夫などが検討課題として挙げられています。
中学校の水泳授業で必要な安全対策猛暑への対策だけでなく、水難事故やプール内の事故を防ぐ取り組みも欠かせません。
特に重要なのは次のポイントです。
1. 授業前に生徒の健康状態を確認する。
2. 泳力に応じて活動内容やグループを調整する。
3. 監視体制と指導体制を明確にする。
4. 水深やプールの設備を事前に確認する。
5. 救命具やAED、緊急連絡手段を確保する。
6. 体調不良時には速やかに活動を中止する。
スポーツ庁の2026年2月の参考資料でも、外部施設を利用する場合を含め、施設管理者・教員・監視員の間で安全確認や緊急時の対応を共有する必要性が示されています。
水泳授業を継続するためには、単にプールを確保するだけでなく、安全に指導できる体制を整えることが前提になります。
【民間委託が進む理由】学校プールを廃止してスイミングスクールを利用?
学校プールの維持が難しくなるなか、注目されているのが民間施設への水泳授業の委託です。
これは、学校が水泳授業そのものをやめるのではなく、授業を実施する場所や指導体制を変える方法です。
スポーツ庁が2026年2月に参考資料を公表2026年2月12日、スポーツ庁は「持続可能な水泳授業の実施に向けた参考資料」を教育委員会などに周知しました。
資料では、学校プールの管理・運用の課題を踏まえ、次のような方法が紹介されています。
- 学校プールを複数校で共同利用する
- 公営プールを活用する
- 民間スイミングスクールなどのプールを利用する
- 外部の専門指導者と連携する
- プールの管理業務を委託する
注目すべきなのは、学校プールを一律に維持することだけを前提としていない点です。
教育効果、教員の負担、財政面などを総合的に考え、地域に合った方法を検討するよう促しています。
水泳授業の実施方法を比較それぞれの方式には、異なるメリットと課題があります。
京都市では、2024年度からスイミングスクールと連携した水泳授業の試行を開始しています。
2026年度は小中学校を合わせて12校で試行実施しています。
京都市教育委員会が公表した2026年6月の回答によると、児童生徒や保護者からは、専門コーチの指導によって水泳への苦手意識が和らいだことや、天候に左右されず授業を行えることを評価する声が寄せられています。
実施校からも、安全面や指導面での効果、プール管理業務の負担軽減が報告されています。
一方、施設までの移動時間や手段、施設側の受け入れ体制などは引き続き課題です。
また、東京都東久留米市では2026年9月3日、水泳授業の民間委託の試行実施に向けたサウンディング型市場調査の実施を公表しました。
猛暑による授業の中止や施設の老朽化、維持管理費の増大を背景に、民間プールを活用する可能性を検討しています。
民間委託なら教員の仕事がすべてなくなる?ここは誤解しやすいポイントです。
民間委託を導入しても、学校の教員が水泳授業に関する責任をすべて手放せるわけではありません。
スポーツ庁の参考資料では、外部インストラクターと連携する場合でも、担当教員が生徒の学習状況を把握し、必要な指導や評価を行うことが求められています。
専門家に技術指導を任せながら、学校側が教育目標と安全管理を適切に担う体制が必要です。
民間委託の本当の価値は、単なる業務の外注ではなく、専門的な指導環境と学校教育を組み合わせられることにあります。
【学習指導要領を解説】中学校の水泳授業は何年生で何時間?目的は?
水泳授業が実施されない学校が増えているからこそ、そもそも学校で水泳を学ぶ意味を理解しておく必要があります。
中学校の水泳授業は何年生で行われる?文部科学省の中学校学習指導要領解説(保健体育編)では、水泳を体育分野の学習内容として位置づけています。
学年ごとの学習内容は次のように整理されています。
第1学年・第2学年
小学校で学んだ泳ぎ方を発展させ、クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライなどの泳法を身に付けることを目指します。
単に距離を泳ぐだけではなく、手足の動きと呼吸のバランスを理解し、泳ぎ方を改善する学習も行います。
第3学年
第1・第2学年で身に付けた泳法を基礎として、より効率的に泳ぐことを目指します。
記録の向上や競争の楽しさだけでなく、自分や仲間の課題を見つけ、合理的な解決方法を考える学習も含まれます。
ただし、学年ごとの実技実施状況や年間計画は学校によって異なります。すべての学校が同じ時期、同じ回数で授業を行うわけではありません。
中学校の水泳授業は何時間ある?気になるのが、年間の授業時間数です。
実は、国の学習指導要領には、水泳だけに充てる全国一律の年間授業時数は定められていません。
各学校が地域の状況や教育課程に応じて、年間計画を作成します。
自治体の計画例を見ると、鳥取市の資料では中学校の水泳授業は平均約8.2時間とされています。また、埼玉県吉川市では、中学校の水泳授業を1回50分、年間10時間程度実施する計画例が示されています。
つまり、年間8~10時間程度は自治体などで見られる計画例であり、全国共通の義務的な授業時間数ではありません。
猛暑や雨天などで予定どおりに授業ができず、実施時間が減少する学校もあります。
水泳授業の目的は泳げるようになることだけではない学校の水泳授業には、大きく分けて3つの教育的な目的があります。
1.水に親しみ、泳ぐ楽しさを知る
水の浮力や抵抗を体験しながら、泳ぐことの楽しさや運動の喜びを学びます。
2.泳法や身体能力を身に付ける
クロールや平泳ぎなどの泳法を学び、体力や運動技能を高めます。
3.水難事故から身を守る力を育てる
水中での危険を理解し、自分の体力や泳力に合った行動を判断する力を身に付けます。
特に3つ目の目的は、学校水泳の教育的価値を考えるうえで重要です。
日本は海や河川、湖沼などの水辺が身近にあります。水難事故を完全に防ぐことはできませんが、水に慣れ、危険な状況を理解しておくことは、自分の命を守るための基礎になります。
文部科学省の学習指導要領解説でも、水泳の事故防止に関する心得を守ることや、健康・安全に気を配ることが学習内容として示されています。
また、着衣のまま水に落ちた場合の対処についても、学校の実態に応じて取り扱うことができるとされています。
【今後どうなる?】中学生の水泳授業は廃止ではなく実施方法が変わる
2026年の動向を見ると、中学校の水泳授業は、従来の学校プールを使った方式から、地域の施設を活用する方式へと変化する可能性があります。
ただし、実技授業の機会を確保することと、学校プールを維持することは別の問題です。
この2つを分けて考えることが、今後の水泳教育を理解するポイントになります。
学校プールをなくしても水泳教育は継続できるスポーツ庁が2026年2月に示した参考資料では、複数校によるプールの共同利用や公営・民間プールの活用が紹介されています。
つまり、学校に専用プールがなくても、水泳の実技授業を続ける方法はあります。
自治体にとっては、すべての学校にプールを建設・維持するよりも、地域の施設を集約して活用する方が合理的な場合もあります。
一方、近くに適切な施設がない地域や、送迎バスを確保できない地域では、外部施設の利用が難しくなる可能性があります。
地域によって水泳教育の機会に差が生じないようにすることが、今後の大きな課題です。
2026年3月からは水泳授業のあり方も検討課題に2026年3月27日の文部科学省の体育・保健体育、健康、安全に関するワーキンググループ資料では、学校プールの老朽化や屋外プールの暑さへの対応、民間事業者との連携などを踏まえ、水泳授業のあり方について検討を深める方向性が示されました。
論点には、次のような内容が含まれています。
- 水泳学習の内容や指導体系
- 暑熱対策と施設整備
- 指導体制の充実
- 水中での安全確保につながる学習
- 多様な生徒が参加できる授業づくり
これは水泳教育をなくすという方針ではありません。
むしろ、従来の設備や授業方式だけでは対応しにくくなった問題を整理し、今後も学習機会を確保するための検討です。
保護者が確認したい5つのポイント子どもの中学校で水泳授業が変更される場合、保護者は次の点を確認すると、学校の方針を理解しやすくなります。
1. 実技の有無: 学校プールがなくても、外部施設で実技を行うのか。
2. 授業時間: 年間の予定時間と実際に確保できる時間はどの程度か。
3. 安全管理: 教員やインストラクター、監視員の役割分担は明確か。
4. 熱中症対策: WBGTなどを活用した中止基準や休憩場所が整っているか。
5. 学習内容: 泳法だけでなく、水難事故防止や安全に関する学習も含まれるか。
特に確認したいのは、学校プールの廃止後に、子どもたちの実技学習がどのように確保されるかという点です。
施設を廃止すること自体が問題なのではなく、その結果として学習機会が失われてしまうことが問題だからです。
【プロの結論】中学生の水泳授業はなくなるのか?
2026年11月現在、中学校の水泳授業が全国一律に廃止されると決まった事実はありません。
確かに、2025年度は中学校の22.8%で実技授業が実施されていませんでした。
しかし、文部科学省やスポーツ庁の動きを見ると、教育現場が目指しているのは、単純な水泳授業の廃止ではなく、持続可能な実施方法への転換です。
今後は、学校プールの老朽化や維持費の問題を解決するために、民間施設や公営プールを利用する学校が増える可能性があります。
一方で、民間委託には移動時間や費用、安全管理などの課題も残ります。
水泳授業の将来を考えるうえで、本当に注目すべきなのは、学校にプールがあるかどうかだけではありません。
生徒が安全な環境で水に触れ、泳ぎ方を学び、水難事故から自分の命を守る知識と判断力を身に付けられるかどうかです。
施設の維持方法が変わっても、こうした教育的な目的が失われてはなりません。
【中学生の水泳授業に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:中学生の水泳授業は2026年から廃止されるのですか?
A1:全国一律で廃止される制度や決定はありません。2025年度には中学校の22.8%で実技授業が未実施でしたが、地域によっては民間プールや公営施設を利用して授業を継続する取り組みが進んでいます。
Q2:中学校の水泳授業は何年生で何時間行いますか?
A2:学習指導要領では、第1・第2学年で泳法の習得、第3学年で効率的に泳ぐことを学びます。ただし、年間の水泳授業時間数は全国一律ではなく、各学校の教育課程によって異なります。自治体の計画例では年間8~10時間程度のケースがあります。
Q3:学校プールが廃止されたら水泳の実技授業は受けられませんか?
A3:必ずしもそうではありません。近隣の学校、公営プール、民間スイミングスクールなどを利用する方法があります。ただし、施設までの移動手段や授業時間、安全管理体制の確保が必要です。
2026年の中学生の水泳授業をめぐる状況は、学校プールの老朽化や猛暑、教員の負担などが重なり、大きな転換期を迎えています。
2025年度に中学校の22.8%で実技授業が実施されなかったという数字は、学校水泳の維持が難しくなっている現実を示しています。
一方、スポーツ庁による参考資料の公表や、京都市などの民間施設活用の取り組みからは、学校プールを持たない形で水泳教育を続ける可能性も見えてきました。
これからの水泳授業で大切なのは、学校にプールを残すことだけを目的にするのではなく、子どもたちが実際に水に触れ、安全に泳ぐ力を学べる環境を整えることです。
学校プールの廃止と水泳授業の廃止は同じではありません。今後は、各自治体がどのような施設を選び、どのような指導体制で子どもたちの学習機会を守るのかが、重要な判断基準になっていきます。
中学生の水泳授業は、なくなるというよりも、学校ごと・地域ごとに実施方法が変わっていく段階にあると考えられます。
主な参考資料:文部科学省「松本洋平文部科学大臣記者会見録」(2026年7月21日)、スポーツ庁「持続可能な水泳授業の実施に向けた参考資料」(2026年2月12日)、文部科学省「中学校学習指導要領解説 保健体育編」(2024年12月一部改訂)、文部科学省の体育・保健体育、健康、安全WG資料(2026年3月27日)、京都市教育委員会の公表資料。